Line (10) side:悠
一体何をしていたのか…やっと部屋から出てきた寛貴さんの隣には梨桜ちゃんがいた。
「すげ…」
「やべぇだろ」
初めて彼女を見る奴がいたらしく、傘下のチームの幹部達が呟いていた。
梨桜ちゃんがオレ達の所に来ると煙草を吸っていた奴等が一斉に火を消して、ボーっと見惚れている。
「やっと起きたのかよ?梨桜ちゃんは眠り姫だな」
拓弥さんがからかうと、真顔で「それなら、王子様の愁君に起こしてもらわなきゃ」と返されて、拓弥さんが青ざめていた。
からかって、爆弾を落とされて、寛貴さんに視線で殺されそうになって…
拓弥さん、バカだろ。
「宮野が迎えに来るんだろ?」
仕方がないからオレが助け船を出してやると、梨桜ちゃんがニッコリと笑って頷いていた。
「うん、用事が出来たから帰るね」
「夕飯も一緒に食いたかったな」
オレが言うと「ごめんね、今度一緒に食べようね」と笑顔が返ってきた。
チームの奴等がざわつきだし、倉庫の入口に目を向けると車が入ってきた。
車から降りて来たのは宮野と三浦…二人揃って梨桜ちゃんの迎えかよ。見せつけやがって嫌味な野郎だ。
「葵!」
「走るな!」
まだ走っていないのに、宮野が梨桜ちゃんを止めると、寛貴さんが梨桜ちゃんの腕を掴んでいた。
「走るなって何回言えばわかるんだおまえは」
梨桜ちゃんの前に立った宮野が凄むと「ごめん」と言ってまたニコニコと笑っていた。
「連れて帰る」
「ああ」
梨桜ちゃんの髪をぐしゃぐしゃにしながら言い、寛貴さんは頷いていた。
なんか…宮野のこういう仕草と言葉を聞くと、梨桜ちゃんはオレ達だけの姫じゃないんだな…って嫌でも思い知らされる。
宮野と一緒に歩き出すと「先に行ってて」と言い、オレ達の所に戻って来た。
「どうした?」
寛貴さんが聞くと、梨桜ちゃんは寛貴さんの袖を掴んで見上げていた。
「寛貴、ぬいぐるみお願いね?」
「ああ、分かってる」
オレもこんな風にお願いされてぇ…
羨ましい気持ちで見ていると、梨桜ちゃんは背伸びをして寛貴さんの耳元で何かを言っていて、話を聞きながら寛貴さんは笑みを浮かべていた。
「梨桜ちゃん、帰るよ」
三浦に言われると、梨桜ちゃんは手を振って帰ってしまった。
「あーあ、帰っちゃった」
「悠、お前は真面目に学校に行けば毎日一緒だろ」
拓弥さんの言葉が耳に痛い…
分かってるけど、オレだってイロイロあんだよ!!悔しいから宣言してやった。
「そうだなっ!今度の課外研修も一緒だから土産買ってきてやるよ、梨桜ちゃんと選んだヤツ」
「悠、生意気だぞ」
「学校祭も同じだから一緒にイロイロ回れるしな」
どうだ、悔しいだろ!!そう思って笑うと、背中に冷たいモノを感じた。
「悠、その口閉じねぇと埋めんぞ?」
拓弥さんにトドメをさすと、寛貴さんがスッゴく怖い顔をしてオレを脅した。拓弥さんにトドメを刺すつもりが寛貴さんに刺したらしい‥‥
傘下の奴らは笑いを堪えていて、オレが睨むと必死に顔を歪めながら笑いを我慢していた。
「悠、おまえバカだな」
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