Line (9)
「早く言え」
どうしてこんなにオレ様なの?
でも、好きになっちゃったんだよね…
首にかけていた腕を外して、目の前にある寛貴の頬を両手で挟んだ。
「あのね…」
恥ずかしいけど、教えてあげようかな。
そう思ったのに鳴り響いた携帯の呼び出し音。
…しかも、この音は家族専用。
少しだけ“やっぱり邪魔が入るんだね”そう思ってポケットに入れていた携帯を取り出した。
「誰だよ?」
不機嫌そうな寛貴をチラリと見て、携帯の画面を見ると予想外の人からだった。
「パパから…」
『パパ』その単語を聞くと、寛貴が私から離れて身体を起こしてくれた。
何かあったんだろうか?少し心配に思いながら通話ボタンを押した。
「パパ?」
『梨桜、寝てた?』
聞こえてきたのはいつもの優しいパパの声。
夏休みが終わったばかりなのに、次に帰国する冬が待ち遠しくなってしまう。
「起きてるよ」
さっきまでキスしていたことを思い出して、カッと顔が熱くなってしまった。
何故だか凄く恥ずかしい気分。
『元気でやってたか?』
寛貴を見ると、部屋を出て行ってしまった。
気を遣わなくてもいいのに…
「…うん、元気だよ。どうしたの?」
『ママの一周忌をやろうと思ってね‥‥梨桜、葵と一緒にお寺にお願いしてくれないか?慧君とも相談して決めなさい』
もうすぐ一年が経つんだね…いろいろな事があり過ぎた一年間だった。
「日程はお寺に任せていいの?」
『ああ、いいよ。それから‥‥葵が修学旅行でイギリスに来ている間は三浦先生の家にお世話になりなさい。先生から申し出てくれたんだ、先生のお母さんが楽しみにしているそうだよ』
涼先生のお家にお泊り?涼先生は私の主治医だけど、男の人なんだよ!
あの大きな離れにお泊りしたら二人っきりだよ、そんなの申し訳ないよ!!
パパってば、どうして許可しちゃうの!
「葵はいいって言ったの?」
葵がいいっていう訳無いよ。そう思って聞くとパパは可笑しそうに笑っていた。
『お邪魔するのは本宅の方だよ。葵がいないんだから仕方ないだろう。梨桜いいね?』
本宅、ね…涼先生と愁君のご両親が住んでいるお屋敷なら納得できるかもしれない。
それを先に言ってくれればいいのに、焦ったよ。
「うん‥‥お寺の都合を聞いたら連絡するね」
扉が開いて寛貴が戻って来た。手にはお茶のペットボトルを持っていた。
『無理はするなよ』
「うん。また電話するね」
電話を切ると、寛貴がベッドに腰を下ろしてペットボトルを渡してくれた。
「親父さんなんだって?」
「ママの一周忌をするからお寺の予定聞いてきなさいって‥‥それとね」
「‥‥それと?なんだよ」
「葵が修学旅行に行ってる間は涼先生のお家に泊まりなさいって‥‥」
「…あの離れにか?」
寛貴が憮然とした顔をしていた。その顔があまりにも不機嫌そうだったから、慌てて「違うよ」と訂正すると「だったらどこだよ」と余計に不機嫌にさせてしまった。
もしかして、妬いてくれた?…なんて、そんな訳無いよね。涼先生だもんね…
「涼先生と愁君のご両親が住んでいる本宅にお泊りするんだって。離れで二人きりだったら、私、お詫びしに行かなきゃいけなくなっちゃうよ」
「は?なんで梨桜が詫びるんだよ」
意味が分からなそうな寛貴が意外だった。
あれ?知らないの?皆、知っているんだとばかり思ってた。
「私が離れにお泊りしたら、涼先生の婚約者に申し訳ないじゃない」
やっぱり知らなかったらしい寛貴は驚いていた。そんな顔も可愛いけれど、私には用事が出来てしまって、珍しい表情を堪能できなくなってしまった。
「寛貴、私お寺に行かなきゃ。あ、それから連絡しなきゃ。電話してもいい?」
葵と慧君に電話して、お寺に行って挨拶をして、日程を決めて…パパにもう一度連絡をして…今日の午後が忙しくなってきた!
.