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今まで、こういう場面に飛び込んでくる人がいたんだけど……今日は誰も来ない。
不思議だったけれど、まだ、こうしていたいから考えるのを止めた。
「言いたいことがあるなら言えよ」
突然言われたその言葉に、愁君だけじゃなく寛貴にまで見透かされるようになってしまったのかと思ったけれど、知らないフリを通すことにした。
「……何の事」
胸に顔を埋めたまま答えると、引き離されて顔を覗き込まれた。
「溜めこまないで言え」
いきなり言われても…困る。
言いたいんじゃなくて、“聞きたい”の。
「寛貴は?私に言いたいことある?」
私がさっきしたように指で私の唇を撫でると、喉の奥で笑っていた。
「…お前が言ったら言う」
狡い。
私に言わせようっていう考えも、至近距離でのその笑顔も…狡いよ。
「…言わない」
首を横に振って、そう言ったら頭の上で舌打ちされた。
「おい」
呆れているような、怒っているような…判断がつかない声で呼ばれて顔を上げたら、私と目が合うなり大きな溜め息をついた。
「何よ」
「オレは…返事を聞きたくない訳じゃないからな。忘れるなよ?」
忘れてないよ、ちゃんと考えたよ。
答えも出た。
寛貴からそんな風に言われると、悪いことをしている気分になる。
焦らしてるわけじゃないの、気持ちを聞きたいだけ。
「聞いてもいい?」
思い切って口にしてみたけれど、顔を見る勇気が無くて俯いたままになってしまった。
「…なんだ?」
「あの、寛貴は…私の事を」
ぎゅうって抱き締められて次の言葉が繋げられなかった。苦し…
「寛貴…くる、し…」
「お前は言われないと分からないのか?」
溜め息をつかれたけど、聞きたいものは仕方無い。
好きな人に自分がどう思われているか知りたいの。
「…言葉で聞きたい」
ダメ?
「オレが言ったら、梨桜は?言うのか」
寛貴が言ってくれたら…言う。
自分の気持ちを伝える。
「うん」
頷くと、腕を解き、正面から私の顔を見るともう一度深く抱き寄せられて…
耳元で囁かれた。
「好きだ」
嬉しい、涙が出そう。
「…」
涙を堪えていると、また、頭の上で舌打ちが聞こえた。
「……おい、自分はだんまりかよ」
私を自分から引き離すと、ジロリと睨まれた。
違うよ、嬉しいんだよ。分かってよ、寛貴のバカ…
両手を伸ばして寛貴の首に抱きついた。
「好き。…ひゃぁっ!!」
抱きついたまま押し倒されて、情けない声を出してしまった。
「…さっき、何を確かめていた?」
そこに拘るんだね…
好きだっていう事を確かめていた。なんて言えない
首を横に振ると眉根が寄せられたけれど、すぐに口角を上げて笑みの形を作った。
不敵に笑うその表情は、当事者じゃなければ見惚れてしまいそうに魅力的だけど…
当事者の私には恐怖でしかない…
「梨桜、言わねぇなら力尽くで吐かせるぞ」
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