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秋桜  作者: 七地
185/258

Line (6) side:悠


「おい‥‥ウチの総長様がデッカイぬいぐるみ抱えてんだけど…」


寛貴さんと梨桜ちゃんが出かけてからしばらくして…拓弥さんの言葉に耳を疑った。


ぬいぐるみ?…寛貴さんが!?


「またまた‥‥拓弥さん、ありえないって。これから傘下のチームが挨拶に来るんだぜ?」


冗談も大概に、と続けようとしたら、拓弥さんは真顔で窓の外を指差した。


「‥‥オレにはアレがクマのぬいぐるみにしか見えない」


窓に駆け寄ると、確かに寛貴さんはぬいぐるみを脇に抱えている。

首にリボンが結ばれているクマを抱えてるってどういうことだよ!?


ここは朱雀の倉庫だぞ!?


寛貴さんは総長だぞ!?


前代未聞だ!!


『嘘だろ!!』と叫びそうになったけれど、続けて車を降りて来た梨桜ちゃんを見てホッとした。


「梨桜ちゃんのクマだろ…焦った」


「‥‥だよな。でも、寛貴が女にぬいぐるみを買い与えるっていう図もありえないだろ。あの寛貴だぞ!?」


確かに‥‥

どんな顔をしてあのぬいぐるみを買ったのか見てみたい。


オレは真相を確かめるために、幹部室から出て一階へ降りて2人を出迎えた。


「おかえりなさい」


「ただいま!」


「ああ」


早めに到着していた傘下のチームの幹部達は、寛貴さんがぬいぐるみを持っている光景に驚いていた。


「梨桜ちゃんのクマ?」


梨桜ちゃんは寛貴さんからぬいぐるみを受け取るとオレの目の前に持ち上げた。


「この子はね、麗香ちゃんの誕生日プレゼントだよ。可愛いでしょ?」


ああ、笠原…納得した。

これを買いに行くための買い物ね‥‥


「なんだ‥‥」


寛貴さんが梨桜ちゃんに買ってあげたのかと思った。


「悠君も内緒にしててね。この子をプレゼントして驚かせたいの」


クマを抱き締めながらすっげーニコニコしていて、こっちまで笑ってしまう。


「寛貴さん!」


傘下チームの幹部達が挨拶をするために駆け寄って来ると、寛貴さんから目線で“梨桜ちゃんを連れて行け”と言われたオレは梨桜ちゃんからぬいぐるみを受け取った。


「…」


寛貴さんに挨拶に来たハズなのに、その手前で立ち止まってしまっている幹部達。

奴等を見て、梨桜ちゃんが頭を下げた。


「こんにちは、東堂梨桜です」


「「「こんにちはっ」」」


一瞬にして、ヤンキーが純情少年になった。

今日もまた、凶器の笑顔に破壊された奴が数名…


「梨桜、上に行ってろ」


苛ついた声は暗にオレを急かしている。

今日の寛貴さんはいつになく心が狭い。


いつまでも呆けた顔で彼女を見ているバカ達から梨桜ちゃんを遠ざけるために総長室に連れて行った。

ベッドの上にクマのぬいぐるみを置いたんだけど‥‥殺風景なこの部屋に、ぬいぐるみは非常にそぐわない。


「これ、いつ笠原に渡すの?」


「明日の放課後だよ。寛貴が生徒会室に運んでくれるって言ってくれたの」


寛貴さんがこれを抱えて学校の中を歩くのか?‥‥似合わないけど、なんだか微笑ましい。


「悠君、これからここで何かあるの?」


「傘下に所属してるチームの幹部が挨拶しに来るんだ」


「‥‥私、ここにいていいの?」


明日の事を想像してニヤケそうになっていると、梨桜ちゃんが遠慮がちに聞いて来た。


「いいに決まってるだろ?」


梨桜ちゃんは部外者の自分が深く関わると朱雀のメンバーが心良く思わないと思っているらしく、時々同じような事を聞いてくる。


実際は梨桜ちゃんと話をしてみたい奴らばかりで、寛貴さんが怖くて声をかけられないから憧れの目で見ているしかない。

運良く話ができた奴らは純情少年に早変わりしていく。


それが今の現状。


彼女は、2人の総長の弱点でありチームの弱味。それは梨桜ちゃんの身を危険に晒す事になるけれど…


それでもオレ達は君を手放したくない。



・・―――

   ―――・・


「寛貴、休憩にしようぜ」


煙草を吸いたくなったらしい拓弥さんが声をかけるとオレは総長室の冷蔵庫に何も入っていない事を思い出して、二階に上がった。



「梨桜ちゃん…何か飲む?」


「―――」


「梨桜ちゃん?」



返事が無いと思ったら、ソファーに座ったまま眠っている梨桜ちゃん。

オレがベッドに運びたいけど、それがバレたら寛貴さんに殺される。


仕方なく下に降りて、まだ話し合いをしている寛貴さんの隣に立った。


「どうかしたか?」


「梨桜ちゃん、ソファーで寝てるけど」


寛貴さんが立ち上がって上に向かった。


「良く寝る子だよな」


拓弥さんが言い、ポケットから煙草を取りだして咥えた。


「拓弥さんオレにも一本」


チラリとオレを見て、口角を上げる拓弥さん。

それを無視して煙草に火を点けた。




「「「…」」」


ここにいる奴等が思っている事。


『寛貴さんが戻って来ない』


ソファで眠っている梨桜ちゃんをベッドに移す為に総長室に行った。…なのにいつまでたっても戻って来ない。


『寛貴さん、ナニやってんすか?』ここにいる奴等の頭の中で、イケナイ妄想が広がっているに違いない。

でも、相手が寛貴さんだから、口に出せずにいる。


そんな中、拓弥さんだけが楽しそうに笑っていた。


「おまえら、挙動不審ですげー笑えるぞ!」


「寛貴をお前等と一緒にすんなよ」そう言いながら笑っている拓弥さんの携帯が鳴った。

画面を見て、ニヤリと笑うと楽しそうに電話に出ている。


「おまえナニしてんだよ?」


分りつつ、からかう拓弥さん。

いつか絶対、寛貴さんにシメられると思う。


「―――お前が送るんじゃないのか?――――仕方ねぇな。ああ、分かった。伝達しておく」


電話を切ってオレを見た。


「これから宮野が梨桜ちゃんを迎えに来る。念の為に傘下の奴等にも手出しするなって連絡入れろ」


「梨桜ちゃんに何かあったのか?」


「…わかんねぇけど、電話口の向こうで梨桜ちゃんが初代と話してる感じだったぜ」


「「「初代って、あの初代ですか!?」」


拓弥さんの言葉に、その場に居る奴の顔色が変わった。

お前等な、初代は伝説の人かもしれないけど…


初代の正体はな……双子を(特に梨桜ちゃんを)溺愛して、五代目に呆れられてる叔父バカなんだぞ。


教えてやりてー!!



.


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