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秋桜  作者: 七地
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Line (4)

「姫って怖いモノ知らずなんだな」


ジタバタしている小橋さんの手を掴みながら「早く!」と言うと、朱雀のメンバーの彼等は肩をすくめて教室に向かって口を開いた。


「ユキヤ!」

「客!1年の女の子!!」


大きい声で呼ぶから私達に気づいていない人まで振り向いた。一斉に注目を浴びて恥ずかしい…


「姫、これでいいか?」


不満の残る呼び方だけど、とりあえず助かった。「ありがとう」と言うと、「姫、頑張って」と言われた。

頑張るのは私じゃなくて、小橋さんだから。


「え…君って、…東堂梨桜ちゃん?」


声をかけられて、そちらを見るとちょっと軽そうな男の子が立っていた。


「ユキヤ先輩ですか?」


男は「あ、うん」と頬を染めて頷いた。どうして頬を染める必要があるの?


「そうだけどオレに用事?…東堂さんが来てくれるなんて嬉しいな」


照れくさそうに笑う彼が分からなくて、首を傾げると凄い力で手を振り払われた。


「やっぱりダメ!!」


「え!?」


小橋さんが私の体を押しのけるようにして手を振り払って逃げた…よろけて尻もちをついてしまうと、ユキヤ先輩が何が起こったのか理解できないのか、呆けた顔で私を見ていた。


「追いかけて!」


床に座り込んだまま言うと、訳が分からないのか、私と、私が指差す方を交互に見ているユキヤ先輩。

何をモタモタしているの!早く行って!!


「え?」


私を見なくていいから、早く!!


「早く追いかけてっ!ほらっ」


小橋さんが逃げた方を指差して、ユキヤ先輩の膝をバシッと叩いた。


「小橋恵美ちゃん!早く追いかけて!彼女でしょ!?」


「え?恵美!?」


漸く走り出した彼を見て、一安心。

どうか、仲直りしてくれますように。

用事は済んだから、早く帰ろう。ココは視線が煩くて居心地が悪すぎる。


「何をしてるんだおまえは…」


頭の上から声が降ってきて、見上げると寛貴が私を見下ろしていた。

あれ、寛貴ってこのクラスなの?


「転んだのか?」


「うん、まぁ…」


差し出された手を掴もうとしたら、両脇に手を掛けられて身体を持ち上げられた。


「…ありがと」


トン、と地面に立たされると教室から拓弥君が顔を出した。


「梨桜ちゃんから、すげーいい匂いがする」


クンクン、と拓弥君が匂いの先を探し当てた。


「入りなよ」


拓弥君に腕を引かれて教室に入ってしまった。「お邪魔します」と言いながら中に入ると、クラス中から注目を浴びていて、恥ずかしい。

高校生の男の子って1学年違うと雰囲気が随分変わるんだね…


「そこに座れ」


寛貴が座った隣に座り、手にしていた袋を机の上に置いた。


「それ何?」


「パン。さっき焼きあがったの…食べる?」


袋から、小分けにしていたパンを出すと、拓弥君と寛貴が手に取って口に入れた。


「旨い!梨桜ちゃん、なんでユキヤを呼び出したんだ?」


「小橋さんに彼と仲直りしたいから一緒に来てって頼まれたの。先輩の為にケーキ焼いたんだって」


寛貴がもう一つパンを手にした

お昼休みまでもう少しなのに…今そんなに食べたら、お昼が食べられなくなるよ?


「寛貴お腹すいたの?」


「ああ…これ、旨いな」


「梨桜ちゃんはパンでユキヤの彼女はケーキ?」


「うん、まぁ…」


ケーキもいいなって思ってたんだけど、なんか…ストレス解消に捏ねたくなったからパンにしたんだよね。

拓弥君のせいで、また思い出してしまった。


「?…なんか意味深だな」


拓弥君に笑われて「意味なんかないよ」と言うと「ムキになると怪しい」とからかわれた。

この男にだけは絶対に知られたくない。知ったらずーっとからかって遊ばれて…考えるだけで恐ろしい!


予鈴が鳴り、次の授業は移動教室だったのを思い出した。


「教室に戻らなきゃ。今日、悠君は休みだけど倉庫には来るんでしょ?」


「ああ」


授業はサボってもチームには来るってやっぱり不良だ。授業を受けないから赤点になっちゃうのに…


「作りすぎたからみんなで食べてくれると嬉しいんだけど…いい?」


「あいつら喜ぶよ。この前も感激してたよ」


大袈裟な…手抜きコロッケだったのに…

紙袋を寛貴に渡して立ち上がった。


「校舎まで送る」


「大丈夫だよ?」


「バカな野郎達に絡まれたら嫌だろ?寛貴に送ってもらいなよ」


さっきのむさ苦しい雰囲気を思い出して頷くと、寛貴も立ち上がった。



廊下はやっぱりさっきと同じで、女子生徒一人じゃ歩けない雰囲気。良くここを通って来たな、と我ながら感心する。


「一人でここに来るなよ?用がある時はオレを呼べ」


私をじろじろと見ている人達も、少し前を歩く寛貴を見ると視線を逸らしてしまう。

この男達の頂点に立っている男…


どうしよう、背中を見ているだけなのに…胸が、ギュッとなりそう…


「おい、聞いてるのか?」


振り返らないで欲しい、また変顔になるから…


「梨桜?」


私が黙っていると、立ち止まって顔を覗き込んだ。ああ、もう本当に止めて欲しい。

今の私を見ないで…


「うん、聞いてるよ」


“もしかして”の想いは確信に変わりそうだ…



・・―――

   ―――・・


夜、円香ちゃんに電話をしたら、『アハハ』と笑われた。


「笑い事じゃないよ」


他人事だと思って楽しそうに笑っている円香ちゃん。真面目に話しているのに!


「円香ちゃん!」


そう言うと、少しトーンを落とした声で『あのね、梨桜』と切り出した。


『初めてでしょ?そういう気持ち』


「そうかもしれない」


『ドキドキするけど、離れたくないんでしょ?』


「…」


その通りかもしれません。

円香ちゃんの言葉は的を得ていて、曖昧にしていたかったこともハッキリと私に突きつけてくる。


『だったら、自分の気持ちと彼の気持ちに向き合ってみたら?今のままにしたっていい事なんか何もないでしょう?』


「…」


円香ちゃんて、凄いね。私が前に進もうと思える言葉をスルスルと紡ぎだすの。

――私の気持ちと寛貴の気持ち――


前、私に言ったよね?


あの言葉の裏にある寛貴の気持ちは、私と同じ?


.


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