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秋桜  作者: 七地
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Line (3)

『…梨桜、顔が変だぞ』


昨日の夜、葵に言われた一言。葵の背中にクッションを叩きつけてやったけど、自分でも自覚していた事を言われると落ち込む…


考えないようにしよう、止めようと思えば思う程、浮かんでくる顔。

変顔が治らなかったら円香ちゃんのせいだよ!!責任取ってよね!?


「東堂さん、そんな顔をしなくても大丈夫よ?」


「…」


声をかけられた方を向くと、クスリと優しく笑う先生。

今は授業中だった…


「心配しなくても上手に出来上がると思うから」


オーブンの前でまた変顔をしていたようで、先生が心配して声をかけてくれたらしい。


「ハハ…そうですよね」


恥ずかしい…

気を取り直して後片付けをすることにした。


『もしかして…』なんだけど、気付いたことがある。

そう、もしかして私…


「っ…ふぇっ…」


突然聞こえてきた泣き声で考えを中断されてしまった。


「…ッ…――それでねっ、ユキヤ先輩がっ」


「――」


「関係ないだろって…私好きなのにっ―」


女の子の涙を見るのは苦手…ってなんだか、男の子みたいな発想だけど、悲しそうに泣いている小橋さんを見ると胸が痛くなる。


「ねぇっ酷いと思わない?東堂さん!」


小橋さんと仲が良い斎藤さんに言われて曖昧な笑みを返した。ごめんなさい、全然聞いてなかったの…


焼き上がりを知らせるオーブンの扉を開いて皿を取り出しながら、彼女達の会話に耳を傾けてみた。


「ひどいね、エッチしたら冷たいなんてサイテー」


麗香ちゃんが憤慨している。

そもそも、何の話?ユキヤ先輩って言っていたけど、小橋さんの彼氏だよね?


「うわ~東堂さん美味しそう!」


話の内容が見えなくて、首を捻っていると、違う女の子が隣から私の手元を覗き込んで感心したように言う

ちなみに今は調理実習中で、今日のテーマは小麦粉。私はパンを作ったけれど、他はケーキを作っている子が多かった。


「焼きたてのパンの匂いっていいよね~」


食パンとクロワッサンとチーズが入ったパンを作ったんだけど、最近のもやもやを粉にぶつけたら作りすぎてしまった。

食パンは明日の朝食にするからいいけれど、作りすぎたパンは…葵に見つかるとまた『人数を考えろ』って怒られてしまうから、朱雀の倉庫に持って行けば誰かが食べてくれるかも…


「ユキヤ先輩に今作ったケーキを持って行って仲直りしてきたら?惚れた弱みだよね」


麗香ちゃんが言った。

何時の間にか話はまとまっているらしい。

話の内容が分かっている麗香ちゃんに後から聞けばいいや。と思い、焼き上がったパンを籠に移すことにして、手を動かしていると


「…東堂さん、一緒に来てくれる?」


「…え?」


私?


「だって2年の教室なんて1人じゃ行けない!お願い、一緒に行って!!」


小橋さんに手を合わされてお願いされたけど、私だって男だらけの校舎なんて嫌!これ以上、むさ苦しいところに行きたくないよ!



断ろうと思っていたのに、授業が終わると同時に小橋さんに拉致された。

私の腕をがっしりと掴まれ、逃げられない。


「ユキヤ先輩のクラスは?」


仕方ないな、と小橋さんに聞くと、瞳をうるうるさせながら首を横に振った。


「やっぱり行くの止めようかな…無視されるの、怖いもん」


さっき、麗香ちゃんから小橋さんが泣いていた理由を聞いた。

彼氏のユキヤ先輩と…エッチをしたら、急に冷たくなってしまい、浮気をしているんじゃないかと疑ったら逆切れされたらしい。


そんな男、別れちゃえ!そう思ったんだけど、彼女はユキヤ先輩の事が好きらしく、仲直りをしたい。…けど、二の足を踏んでいる。


「2組…どうしよう?私やっぱり」


「ここまで来たんだから頑張って!」


急に怖じ気づいた小橋さんは帰ろうとするけれど、その手を掴んで2年のクラスがある2階を目指した


2年と3年のクラスがある校舎はいかにも男子校といった感じ。

私達が歩くのは異質そのもので皆が私達を見る。『1人じゃ行けない』という意味が良く分かった。


嫌がる小橋さんを引きずるようにして歩き、やっと2年2組の前に来た。


「あれ…姫?」


廊下から、どれがユキヤ先輩なんだろうか?と考えていると、見覚えのある顔が私を見ていた。朱雀の倉庫で良く見る顔だ。

小橋さんは私の後ろに隠れてしまい、逃がさないように腕を掴んだ。


「マジ!?…姫、何でここにいるんだ?」


だから、姫じゃないって何回言えば分るのかな…ムッとしたけれど、彼等なら顔見知りだし、ユキヤ先輩を呼んでもらうのに丁度いいと思い、お願いすることにした。


「ユキヤ先輩を呼んで欲しいの。いる?」


「ユキヤ?」


「そう、ユキヤ先輩」


そう言うと、私を“姫”と呼ぶ彼等は眉を顰め、首を横に振った。


「…姫、そりゃマズイよ」


「ここに来て違う男呼び出すなんて…姫、どうなってもオレは知らねーぜ?」



.


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