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「あの、お口に合わないかもしれませんけど、梨桜さんに食べて欲しくて作ってきました!」
差し出された袋を受け取り、お礼を言うと「たくさん作って来たので皆さんでどうぞ」と私ではなく寛貴に笑顔を向けた。
皆さんで…?葵と寛貴に、なんでしょう?
「ありがとう、皆で頂くね」
「あの…また、ここに来ます!お話してもらえませんか?」
「また、会えたら……」
それじゃ、と彼女に軽く頭を下げてその場を後にした。あなたが会いたいのは私じゃないだろうけど…
「こんなに買ってどうするんだ?」
信号待ちをしていると、寛貴が不思議そうに袋の中を覗き込んでいた。
袋に入っているのは、おにぎり、サラダ、菓子パン…後は、なんだっけ?
手当たり次第にカゴに入れたから何を買ったか自分でも覚えていない。
「梨桜はこんなに食べないだろ」
「…桜庭さんと牧原さんに食べてもらうの」
青龍と朱雀、それぞれの運転手の名前を上げると、怪訝そうな顔をしていた。二人共ごめんなさい、名前を借りてしまいました。
「なんで桜庭と牧原なんだよ?」
何故か不機嫌になってしまった。
送り迎えをしてもらっている二人に差し入れをするのって変じゃないと思うんだけど…
「いつもお世話になってるから…寛貴の食べたいものがあったら、食べて」
もしかして、寛貴の食べたいものが入ってた?
そう思って聞いたら、真顔で返された。
「さっきお前が作ってきたのを食べたからいい」
「…」
だったらどうして不機嫌なのよ…
幹部室には男の子がたくさんいて騒々しいから、限られた人しか入れない事になっている総長室で寛ぐ事にした。
「あの女と友達になりたいと思うか?」
寛貴の問いに、買い込んだモノをテーブルに出しながら答えた。
「…私には声をかけないと思うよ」
私って…バカ?
いつもなら選ばないものばかり…小さい頃に買っていた駄菓子が入ってる。
「どういう意味だよ」
お菓子を一つ取り出して封を開けた。
これ、煙草を吸っていた慧君の真似をして葵と一緒に食べたよ。懐かしい…あの頃は葵もチョコレートを食べられたんだよね。
「私がいないときに寛貴が声をかけられると思うから。よろしくね」
煙草に似せて作られたチョコの包み紙を剥がして口に銜えた。
唇に触れているところから、チョコが解けてきて、口の中に甘さが広がっていった。
「どういう意味だ」
さぁ、どういう意味だろうね…首を傾げたら、銜えていたチョコを取り上げられた。
眉間に皺を寄せて「梨桜」と促されたから教えてあげた。
「寛貴と葵に近付きたいから、私の友達になりたいの。…だからそのお菓子も私にじゃなくて、寛貴と葵にだよ」
名前も知らないさっきの子、ごめんね…でも、私を利用しようとするのもズルいからお相子ね?
寛貴からチョコを取り返して、パクパクと食べた。
あま…こんなに甘かった?
「おまえ…」
心配そうな顔をした寛貴に、ひらひらと手を振った。
「慣れてるから平気。…傷ついてないから大丈夫だよ」
久しぶりだったから、騙されそうになったけどね…
可愛い包装紙に包まれた箱を開けると、クッキーが入っていた。
「女の子だね。ラッピングが可愛い」
また、葵目当てに近寄って来られたことよりも、寛貴が…―――
―――考えるの止めた。消化不良になりそう…
クッキーを一つとって口に入れた。
好きな人の事を思って作ったであろうソレは私には凄く甘く感じられた…
「食べる?」
クッキーが入った小袋を寛貴の顔の前に差し出すと、受け取ってテーブルの上に置いた。
「手作りなんて、気色悪くて食えるかよ…」
今更だけど、さっき寛貴が食べたコロッケは私が作った手作りなんですけど…
「ごめんね、今まで手作りを食べさせて…」
片眉を上げて睨まれて『おまえ、バカか?』視線でそう言われている気がした。
「梨桜は違うだろ」
ソファの上で膝を抱えて、顔を伏せた。
「梨桜?」
「ん…」
どうしてだろう?睨まれても、怒られても…その一言が嬉しい。
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