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札幌から帰ってきて、日常に戻った私は、今日も朱雀の倉庫に来ていた。
「…まだ食べるの?」
「食えるよ。このクリームコロッケ旨い」
「そう…ありがと」
『コロッケ』お惣菜の定番メニューが、凄い勢いで無くなって行く。
葵に『オレはもう当分コロッケは見たくない!』と言われた可哀想な私のコロッケは、悠君を始めとした準幹部の男の子達にほぼ食べ尽くされてしまって…
見ている私が胸やけしそう。
「コンビニに行ってくる」
悠君達から目をそらして言うと「誰かに行かせる」と言葉が返ってきた。
「自分で行くよ。皆食べている途中だし…」
お財布を持って部屋を出ようとすると寛貴が一緒に部屋を出た。
「どうしたの?」
「1人じゃ危ないだろ」
夏休みにあったあの事を忘れたわけじゃないけど、あんなことは滅多にないと思うんだよね。寛貴にまで過保護になられると困る…
倉庫からコンビニまで、通りを挟んで直ぐの距離なのに…
何を言っても無駄だという事は、最近思い知ったから、寛貴と一緒にコンビニに行くことにした。
コンビニに入る時に寛貴の携帯が鳴った。
少し難しい顔をして画面を見ていたから、電話が出来るように「買い物してくるね」そう言うと寛貴は店の外で話を始めた。
飲みたかったお茶を買い、済ませたかった用事を終えてコンビニを出ると、寛貴が女の子と話をしていた。
女の子が寛貴に何かを手渡そうとしている。
寛貴を見上げて一生懸命に気持ちを伝えようとしている彼女は…可愛い
二人の傍に行ってはいけないような気がして、もう一度お店の中に入ってしまった。
ふいに、今まで考えもしなかった現実に気付く。
これ、いつもは逆なんだ…
札幌で円香ちゃんに聞かれてから、私は少しおかしい。
あの時、寛貴が私以外にあの笑顔を向けたら…そう考えて、胸が焼けそうだった。
必要の無いモノまで買ってしまい、大きな袋をぶら下げてお店を出るとまだ話をしていた。
背中を向けている寛貴の後ろを通り過ぎようかと思ったとき、女の子が「あ!」と声をあげた。
「梨桜さん!」
その声に寛貴も振り返って私を見ると、袋を持ってくれた。
「ありがと」
きらきらした笑顔で私に笑いかける女の子…
「あの、私…梨桜さんのファンなんです!!」
『きゃ!言っちゃった!』と言いながら、私を見上げている。下から見上げられて…この子、本当に可愛いね…
「おまえのファンだから、話をさせろってうるさい」
面倒そうに言う寛貴を見上げて頬を膨らませ「私は本気なんですよ!」と可愛らしく抗議している。
「梨桜さんとお話をするには藤島さんに許可をとらなきゃって思ったんです!」
女の子と会話をするのに許可はいらないと思うんだけど…寛貴を見ると「うるさい」と目で訴えていた。
「そう…」
私の何を見て、ファンだって言うの?
「宮野さんにも許可をとらないとダメでしょうか」
おずおずと私を見上げる表情が可愛い。私も見習うべき?
にこっと笑った彼女を見て、私も微笑み返した。
…笑う時に気を緩めちゃ駄目だよ。“宮野”って言った時に、本音が顔に出ていたよ。
寛貴の名前を出した時は失敗しなかったのに、残念だったね。
「あの、今度お話してもらえないでしょうか?」
『いい』とも『悪い』とも答えずに笑みを返すと、彼女は困ったように首を傾げた。
「やっぱり…宮野さんにも許可をとらないといけませんか?」
私と仲良くなって、葵に近づくのが目的。そういう子が少なくなかったのに、久しぶりだったから、騙されそうになった。
「寛貴は許可を出したの?」
「この女の事は…オレがとやかく言う問題か?」
「この女じゃないです!さっき名前、言ったじゃないですか」
また、頬を膨らませて口を尖らせて抗議している彼女を見下ろしている寛貴。
この光景が嫌。見たくない…
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