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秋桜  作者: 七地
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背中越しの温度 (10) side:円香

「円香ちゃん、電話だよ?」


せっかく梨桜との楽しい時間を過ごしていたのに邪魔な電話。

どうせ敬彦だろうと思って無視しようとすると、梨桜から「出てあげて」と言われて仕方なく電話に出た。


「なぁに?」


やっぱり電話の相手は敬彦で、低めのテンションで電話に出ると『円香…』情けない声。


『オレ、持ちこたえられる自信が無い』


何を気弱な事を言っているんだか…情けない。

そこで防いでくれなきゃ意味がないじゃない?


「邪魔されたくないんだけど」


『早く今いる場所を教えろ』


いつも一緒にいるんだから、今日くらい譲ってくれればいいのに…どこまで独占欲の強い男達なのよ?


「え~、心が狭いぞって言って…」


不満を敬彦にぶつけると、少しだけ小声で話し出した。


『おまえな、相手が悪すぎるぞ』


情けない事を言う敬彦を叱りたくなった。同い年の男相手に何をそんなに弱気になっているの!?


「敬彦、あんたねぇ」


梨桜が「どうしたの?」と首を傾げて聞いている。敬彦と喧嘩をすると梨桜が心配するから…一度深呼吸をして気持ちを落ち着けた。


『ナンパ目的の男に付き纏われたらどうすんだ?おまえまで拉致られたらどうするんだよ』


「…」


前から美少女だった梨桜は、東京に行ってますます綺麗になった。無いとは言い切れないその可能性に仕方なく今居る場所を教えた。


「タカちゃんが迎えに来るの?」


「…どうだろ、違うと思うけど」


私の読みでは、葵君と敬彦が迎えに来るような気がする。


「ねぇ、東京では男に絡まれないの?」


一瞬、キョトン、としていたけれど「そんなの、無いよ」とケラケラ笑っていた。


「なんで絡まれないのよ」


そう言うと、眉を顰めてブツブツと不満を漏らし始めた。


「だって、放課後に一人で出歩くと凄い怒られるし、麗香ちゃんと放課後デートしている時だって誰かが見てるの。この前もね…」




護衛付きって事ですか…

梨桜から夏休みにあった合コン事件を聞いて、悪いけど笑いたくなった。


「そう言えば、騙されて合コンに連れて行かれてたよね。新作が出る度にさ…」


梨桜と仲の良かった子達は、梨桜にとって良かれと思って連れて行っていたんだけど、当の本人は乗り気じゃなくて、むしろ合コンが嫌いだった筈。


「円香ちゃん、その『新作が出る度に』ってナイショね?」


真剣な顔をしている梨桜に「ハイハイ」と返事をして、残りのケーキを口に入れた。




「あ!」


梨桜が私の後ろを見て手を上げた。


やって来たのは、やっぱり葵君。

梨桜に紙袋を渡すと「着替えてこい」と言い、梨桜と入れ替わりで席に座った。


「由利は?」


敬彦に聞くと、苦笑いを浮かべていた。


「藤島が凄んだら腰抜かして泣いてた」


うわ…あの、由利が泣くなんて…

相手が悪いってこういう事か…梨桜は良く平気だよね。


「東堂は大丈夫そうか?」


「大丈夫だと思う」


尚人と由利の事よりも藤島君とのキスで頭が一杯になってたもんね。

できる事なら、傍にいて今後の展開を見たいわよ。


「お待たせ」


「頭は?気分は悪くないか」


梨桜が隣に座ると頭を撫でている葵君。相変わらずだね…


「押すと痛いけど、大丈夫みたい」


葵君が持ってきた私服に着替えた梨桜は可愛い…

服は葵君と買いに行くことが多いらしいけど、彼が選ぶ服は梨桜の可愛らしさを活かすものばかり。

何が梨桜に似合うかを完璧に把握していて…感心します。


「円香ちゃん、この後、予定はある?」


「空いてるよ」


葵君をジッと見ると、葵君は頷いていた。

嬉しそうに笑う梨桜。


「円香ちゃんとタカちゃんと一緒にご飯食べたいんだけど…いい?」


「おう」


「いいに決まってるじゃない!」




両脇に総長を従えて、ぶどう海老の握りを食べて「おいしい!」と嬉しそうな梨桜。

さっきから海老だけで5種類も続けて食べていて、6種類目は葵君に止められていた。


このイケメンに囲まれながら、海老に没頭出来る梨桜って凄いと思う。


座敷で食事をしている私達は、お店の店員さんは勿論、他のお客さんの注目を浴びている。ここは寿司屋なんだけど、この座敷だけキラキラしたオーラが出ているような気がするよ。


「円香ちゃん、もうすぐ修学旅行だね」


私も行きたかったな、と言いながら梨桜がお茶を飲んでいる。私も梨桜と一緒に行きたかったよ。

ウチの学校はオーストラリアに行く予定。


「お土産買って来るね。何がいいか考えてて」


「うん。タカちゃんは?どこに行くの」


卵焼きを口に入れて「幸せ」と笑っていて、敬彦も前と変わらない梨桜にホッとしたような顔をしてる。


「東京と横浜。オレも海外が良かった」


「時間があったら遊ぼうね。葵達はイギリスでしょ、寛貴達はどこに行くの?」


隣に座っている藤島君が怪訝な顔をして梨桜を見返していた。


「何言ってんだよ」


「修学旅行の話だよ」


「…無い」


「冗談は嫌い。どこに行くの?って聞いてるの」


ムッとしながら言い返している梨桜。それに真顔で返す藤島君。


「紫苑に修学旅行は無い」


「梨桜ちゃん、知らなかったの?」


大橋君が笑いながら聞いていて、葵君も「おまえ、知らなかったのか」と見下ろしている。

梨桜は藤島君の腕を掴んで揺さぶっていた。


「嘘でしょ?」


「こんなことで嘘ついてどうすんだよ。昔から修学旅行は無いんだよ」


あ、梨桜が固まった。「梨桜~」と正面で手を振ったら、がっかりした顔をしている。

この顔を見るのも久しぶり。

この状態から、もう少し苛めると「円香ちゃーん」と言って泣きついてくるの

。それが見たくていつも苛めちゃうんだよね。


「おまえも一緒に来るか?親父の所に泊まればいいだろ」


葵君に『コラ!』と突っ込みたくなった。弟の修学旅行に着いて行く姉がどこにいるのよ!!

甘やかすのも大概にしなさいよ?

葵君の言葉に、悲しそうに呟いた。


「パスポートが無いよ」


ちょっと、梨桜!パスポートがあったら行くつもり!?

だったらウチの学校の旅行に来ればいいでしょ!


.


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