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秋桜  作者: 七地
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背中越しの温度 (7)

閉会式に参加する気分になれなくて、敷地の隅にあった四阿でボーっと空を眺めていた。

寛貴は私に付き添って一緒におサボり中。私の隣で腕を組んで寝ている。


伝えたいことを何回も言葉にしたけれど、彼が納得してくれたのか分からないままになってしまった。彼はあの後どうしたんだろう?葵に殴られたら痛いよね。


「何を考えてる?」


寝ているとばかり思っていた寛貴が、私を見ていた。


「葵に殴られたら痛いよね?尚人君に悪いことをしたな…って」


「殴られて当然のことをしたアイツが悪いんだろ。梨桜、お前はお人好し過ぎるぞ」


私から謝った方がいいんだろうか?そんな事を考えていると呆れたように言われた。

お人好しなんかじゃないよ。


「あの女にも気を遣ってるんじゃないだろうな」


関わりたくない。それが本音だから由利ちゃんに遣う“気”は持ってません。


「遣ってないよ」


眉根を寄せて私を見ている寛貴…疑ってるでしょ、私はそんなにお人好しじゃないよ。

指で眉間の皺を伸ばしてあげようかと思って手を近づけると手首を掴まれた。


「…痛そうだな」


私の手首を見ながら呟いた。


「今は痛くないよ。少し痕になっただけ」


親指で撫でているそこには尚人君に強く掴まれた時に出来た痣があった。


「怖かったよな…」


『怖かった』口にすると思い出して涙が出そうになってしまうから、頷きで答え、目を閉じて涙を堪えた。


「今も怖いか?」


怖くないよ。

首を横に振ると、手首に柔らかいモノが触れて…目を開けると寛貴が唇で触れていた。


「?…っ」


何してるの?そう聞こうとしたら、小さいけれどチリチリとした痛みが走って


「な…」


薄くついていた青色の痕の上に朱い印が出来ていた。

どうして?

自分の手首にできた新しい印を見ていたら、頭を抱き締められた。


「泣くな」


髪を撫でながら言われて顔を上げると、難しい顔をして私を見ていた。


「ごめんね」


「何で梨桜が謝るんだよ」


心配かけてるっていうか…面倒な事に巻き込んでごめんなさい。そう思って謝ったらムッとされてしまって「だって…」そう言うと溜息をつかれてしまった。


ごめんね。でも、心配してくれて、来てくれて…ありがとう。


「謝るな」


口調は少し怒っているけれど、手は相変わらず私の髪を撫でていた。

すぐ傍に、目の前にある寛貴の顔を見ていたら、唇が触れそうな距離がなんだかもどかしくて…

触れるだけの…キスをして…しまった…



「ごめっ…」


すぐに我に返ると、恥ずかしくなった。

私…何してるの?どうして今、キスしたの!?


恥ずかしすぎて顔を上げられない、どうしよう!?「梨桜」と呼ばれたけれど、首を横に振った。


「梨桜」


もう一度呼ばれて、フルフルと首を振り続けると両方の頬を押さえられて顔を上に向けられた。


正面に、さっきよりも近くに寛貴の顔があって余計に恥ずかしい…


「何がごめんなんだよ…」


反らさずに見つめられて…唇が触れた。


触れるだけじゃないキスが気持ち良くて、応えて、求めていた。



.


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