背中越しの温度 (6)
「葵、頭が冷たい」
「当たり前だろ、冷やしてるんだ。黙って寝てろ」
空き教室を借りて(占領して)自由気ままに寛ぐヤンキーズ
私は葵に膝枕をされてたんこぶを冷却中。
「お前も甘いこと言ってないであの根性が腐った女に言えばいいんだよ」
葵はブツブツと私の頭の上で文句を言う。
「なんて言うのよ?」
「性格ブス」
手を伸ばして葵の頬をむにっと摘まんだ。
「いい根性してんじゃねぇか梨桜」
「女の子にブスって言わないのっ」
葵は私の手をつかんで頬から外し、摘まめないように手首を掴んだまま、私に文句を言い続ける。
「ブスはブスだろ、なんだよあの泣き真似。見ている方が気色悪くて泣きたくなるだろ」
だからブスって言わない!
「由利ちゃんはああいう風にしかできないんだよ」
今までそうやって男の子に接してきたんだから急には変えられないだろう。
「お前一応友達だったんだろ?根性叩き直してやれば良かったじゃねーか」
「クラスメイトだったけど、仲は良くなかったよ。それに騙される男の子だって悪いんでしょ?男が騙されるから繰り返しちゃうんだよ」
一般論をぶつけたら、ムッとして私を見下ろした。
「オレがいつ騙されたんだよ」
「そういう話じゃなくて!とにかく女の子にブスって言っちゃダメだからね」
「うるせーなブスはブスだ。本人のために言ってやった方が親切だろ」
私たちは睨み合った。
女の子はブスって言われたら傷つくんだよ!どうしてそれが分からないかな?
「「バカ!」」
「‥‥うるせえ双子だな。悪態つくのもハモるのかよ」
安達先生がぼそりと言うと、葵達の引率の先生は吃驚したように私達を眺めている。
「君達は、家でもそんな感じなのか?」
「そうですけど‥」
先生の質問に私が答えると先生は「そうか、それを聞いて先生は少し安心した」と言いながら頷いていた。
「?」
「コイツは可愛げの無い生徒だからな…。先生、安心してください。双子が揃っている時は年相応ですから」
安達先生の変な解説に先生は大きく頷いていて、愁君は爆笑していて葵はムスっとしていた。
葵ってば学校ではそんなに可愛げのない生徒なの?
「ねぇ葵、冷たすぎて頭が痛くなってきた。起きていい?」
葵は私の背中に手をまわして支えてくれた。
たんこぶのまわりはキンキンに冷えている感じだ
「そろそろ表彰式と閉会式だぞ」
「宮野、おまえは閉会の挨拶するんだから行けよ」
私が葵に『行ってらっしゃい』と手を振ると「他の奴にやらせろよ」とブツブツ言いながらネクタイを締め直していた。
「藤島、表彰されるらしいから行け」
安達先生が言うと、寛貴は拓弥君にひらひらと手を振っていた。
「拓弥、代わりに行ってきて」
「表彰?」
「学校全体で賞を貰うらしい」
へぇ、すごいね‥寛貴と拓弥君の発表を聞かなかったな…勿体無い事をした。
真面目な顔で発表する姿を見たかった。
「藤島~おまえ生徒会長だろ?」
「面倒。こういうのは拓弥が適任だろ」
「…オレ行って来るかな。先生も一緒にステージに上がろうぜ?」
不良って、学校行事とかに参加しなくって、授業も受けなくて‥‥っていうイメージだったのに、こんなにノリが良いと調子が狂う。
やっぱり超進学校のヤンキーって普通と違うんだろうか?
「そうだなぁ、オレも目立つか。東堂は席で大人しく見てるんだぞ」
ウキウキとネクタイを締め直し、準備を始めた先生。
先生ってば目立つのが好きなんだ…実は誰よりも札幌を満喫しているんじゃない?
「オレは用事を済ませてから行く。梨桜ちゃん、一人で出歩かないようにね」
「はーい」
愁君に釘を刺されて素直に返事をした。一人で出歩いて既に痛い目にあっているから…ちゃんという事を聞くよ。
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