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秋桜  作者: 七地
173/258

背中越しの温度 (4)

「…梨桜じゃなきゃ駄目なんだ」


やっぱり平行線?

でも、私は尚人君とは付き合えないよ。


「由利ちゃんがいるでしょう?」


「アイツとは付き合ってない。‥‥オレのところに戻ってきて欲しい」


付き合ってないって思っているのは尚人君だけかもよ?彼女はそう思っていないかもしれない。


そのとき、風の中に煙草の匂いがした。

…この屋上には他に誰かいる?


「付き合ってる奴がいるのか?さっき『葵に』って言ってたよな、あの男は何なんだよ!?」


匂いが流れてきた方向を探していると、尚人君がすぐ近くで急に声を荒げた。

思わず顔を逸らしてしまったら「答えろよ!」と大きな声を出した。


「葵は、私の家族だよ」


「嘘だ!」


近すぎる距離に逃げたくなったけれど、我慢して尚人君に向き直った。


「嘘じゃない、葵と私は双子なの。でもね、好きな人とか関係なく尚人君と付き合うつもりはないよ。私が話したいことは同じなの。私との事を終わりにして欲しい。札幌に来て尚人君に会ったらそう言おうと思っていたの」


視界の隅にひらひらと揺らめくスカートが見えた。

尚人君に気付かれないようにチラリとそちらを見ると、由利ちゃんが覗いていた。

ドアの影に隠れているつもりらしいけど、スカートの裾が見えている。


「オレはあの時、由利に誘われて自分に負けたことを後悔してる」


由利ちゃんはどういうつもりでココに来たの?尚人君が好きだから?……違うよね。

彼女は今ここで尚人君の言葉を聞いて、何を思うんだろう。


「今更だよ、尚人君」


つい、キツい口調で言ってしまったら尚人君は悲しそうな眼をした。


「オレはおまえとやり直したいんだ」


何度、同じやり取りをすればいいんだろう?

何を伝えれば彼は納得してくれるんだろう…


私の言葉を聞き入れてもらえない状況が情けなくて泣きたくなってくる。


「私には考えられない。気持ちが途切れてしまったの。尚人君の気持ちには応えられない」


「梨桜、本当に駄目なのか」


手首を掴まれてビクッと震えてしまった。


「オレが怖いか?つきあってたのに…」


怖い。嫌だ…

腕を引いて逃げようとしたけれど、強く掴まれて叶わなかった。


「痛い…離して」


ギリギリと締め上げられる手首が痛くて「離して」と言うとますます力を込めて自分に引き寄せようとした。


「どうして怖いんだよ?」


やだ…怖い

首を横に振って拒んでも尚人君は許してくれなかった。


「梨桜!」


「イヤ!!」


私とあまり身長差が無い尚人君に抱きつかれると顔がすぐ傍にある。嫌悪感と恐怖でカタカタと体が震えた。


「尚人君、離してっ」


泣きたくなんかないのに涙が出てくる。

お願い、触らないで。私から離れて!


「待つから、梨桜がオレをもう一度好きになってくれるまで待つ!だから」


待つと言いながら顔を近づけて来る彼から逃れる為にもがいたけれど、力では敵わなくて尚人君の顔がどんどん近づいて来た。


「ヤダ!!止めて!」


嫌だ!キスなんかしたくない!!


「イヤッ!!」



.


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