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秋桜  作者: 七地
172/258

背中越しの温度 (3)

先生から「発表前に居なくなるな!」と怒られたけれど、「えへへ」と笑って誤魔化した。

拓弥君には訳知り顔でニヤッと笑われて“いーっ”と返したら、爆笑された。拓弥君にはからかわれて遊ばれてばかり。


「しっかり頼むぞ!」先生から言われたけれど、気合の入らないままステージに立ってしまった。

頭の中は寛貴とのキスとこの発表が終わった後の事で一杯だったから。

先生、期待外れの生徒でごめんね。




発表が終わりステージから降りると尚人君がいた。


「梨桜」


彼に促されて会場を出て、背中を追うと階段を上って行った。

どこまで上るの?


「屋上?」


「ああ‥‥由利に見つかりたくないから」


そうだね、由利ちゃんは独占欲が強いから。見つかったら話が拗れるね。


扉を開けて外に出ると爽やかな風が吹いていた。

気持ちいい、この風を感じられただけでココに帰ってきた。そんな感じがする。


「…怪我はもういいのか?」


「日常生活を送るのに支障が無い程度に回復したの」


当たり障りのない私の返事に、尚人君は笑った。それを冷めた思いで見ている私は酷い女なのかもしれない。


「そっか…良かった。見舞いに行けなかったけど気になってたから」


「心配かけてたんだね、ごめんね」


ぎこちない会話に笑いたくなってしまった。本題に入れない私と尚人君…


そういえば、葵と寛貴に何も言わないで来てしまった事を思い出した。携帯の電源も切ったままだ。

今頃、怒っているかもしれない。


「梨桜」


「なに?」


思い切ったように口を開いた尚人君をジッと見つめた。

もう少し風を感じていたかったけれど、尚人君に向き合った。


「どうしてオレに何も言わないで東京に行った?」


どうして…尚人君は何て言って欲しかった?事故に遭う前の私達の会話はいつも決まっていたじゃない?

『別れたい』『別れない』それの繰り返しだったでしょう?


「急だったの。パパの海外赴任が決まってから、急いで編入できる学校を探して、引越の準備で忙しかったの。ごめんね、友達には事後報告になっちゃったの」


事後報告、そう言ったけれど最初から言うつもりはなかった。

人伝に私が東京に行った事を聞かされたら、尚人君も私とのことを終わりにするだろうって思ってた。


「東京に行ってからでもいいから、オレには言って欲しかった」


「ごめんね」


「…オレは終わりにしたくないんだ」


何を言っているの?

どうしてそんな事を言うの?今まで私が言い続けてきたことは考えてくれなかったっていうこと?


「ごめんなさい、私には考えられない」


きっとどこまでも平行線。

はっきり言わなきゃ、ここで終わりにしなければ尚人君は前に進めない。

悲しそうな眼をする尚人君に畳み掛けるように言葉を繋げた。


「私は終わったと思ってる。葵に『帰って来い』って言われたときに尚人君の事は頭に浮かばなかった。東京に行く日が近づいて来た時にどうしようって思ったけど…私はズルいから逃げたんだよ」



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