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秋桜  作者: 七地
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背中越しの温度 (1)

会場の控え室で制服のチェックをした。

うん、今日も無駄に可愛い制服。周りの女子生徒達も準備に余念がない。


葵達のところに行こうと廊下に出ると、制服の違う男子生徒と女子生徒が互いに話をしている。

昨日のような、女の子達が葵達に突進してきたような光景は流石にないけれど、皆が恋のチャンスを狙っていて、見ている分には面白い。



「「東堂さん!」」


声をかけられて振り返るとこの学校の制服を着た男子生徒が数人立っていた。

朝に寛貴から言われたことを思い出して、怒られるのを覚悟した。

やっちゃった…絶対に「だから言ったろ」って怒られる。


「あの、僕達」


おぉ、“僕達”なんて久しぶりに聞いた。「何か?」と愛想笑いを浮かべると声をかけてきた彼は俯いてしまった。

純情少年なのか…それともこれが普通の男子高校生なんだろうか?

日常が、非日常・非現実的な彼等と過ごしていると何が普通なのか分からなくなっている。


「…用事がないなら、失礼します」


俯いている彼の反応が無いから「それじゃ」と言いかけると、急に顔を上げて「東堂さん!」と呼ばれた。


その剣幕に吃驚していると、彼は拳を握りしめて私をジッとた。

ちょっとだけ…怖いよ!


「「手紙、読んでもらえましたか!?」」


「え?」


「手紙です!矢野君に渡して欲しいって頼んだ手紙を読んでくれましたか!?」


「…」


ごめんなさい、読んでません。目を通す前にオレ様達に処分されてしまいました。

本当の事は言えずに「ごめんなさい」と言うと「ダメですか!?」と食い下がられた。

何が書いてあったのかも分からないのに答えられないよ!


「…ごめんなさい」


謝ると「そんな…」と凄くガッカリされてしまった。

何が書かれていたの?


「それじゃ…」


その場から立ち去ろうとすると「待ってください」と呼び止められた。


「会いに行きます。…だから、会って下さい」


「え?」


何の話なの?

手紙を読んでいないから全然理解できない。…今更だけど、勝手に捨てた二人に怒りたくなった。


「梨桜、こっち」


「尚人君?」


腕を引かれて強引にその場から離され、引きずられるように校舎の隅に連れて行かれた。

ここの学校の生徒だから居てもおかしくないけど、こんなに近くに尚人君の顔がある。その事に不思議な感じがした。


「相手にするな」


助けてくれたのかな…「ありがと」と言うと私を見ていた。

そういえば…八重歯、見てないな。

尚人君が笑うと八重歯が覗いて、それを見るのが好きだった。アレから彼が笑っているのを見ていない気がする。


「髪、切ったんだな」


私の髪に触れようとして伸ばされた手を見たら意識をしたつもりはなかったけれどギュッと目を閉じてしまった。


怯えているような仕草をしてしまった事にすぐに後悔して尚人君を見ると、傷ついたような顔で私を見ていた。


「ごめん…ちょっと吃驚したの」


言えば言うほど切ない目をさせてしまって…彼と目を合わせていられなかった。


「謝るなよ。…昨日一緒に帰った男と付き合ってるのか?」


それって葵の事?

尚人君にはちゃんと説明した方がいい。顔を上げて尚人君を見ると、小さく笑うと私の髪に触れた。


「オレ、あの男に凄ぇ睨まれる…梨桜の事が好きなんだな」


説明しなきゃ、そう考えていたら怯えないで普通にしていられた。


「葵は違うの「梨桜!」


大きな声で呼ばれ、私よりも先に振り返った尚人君は眉を顰めて呼んだ人を見ていた。「梨桜」ともう一度怒った声で呼ばれそちらを見ると寛貴が怒った顔でこちらに歩いて来ていた。


「ごめん、行かなきゃ」


「梨桜の発表が終わったら迎えに行く。その時に話がしたい」


「分かった。後でね…」


尚人君に背中を向けて寛貴を見ると、私に向かって手を伸ばした。


「行くぞ」


伸ばされた手を取ると強く引き寄せられた。



.


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