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秋桜  作者: 七地
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背中合わせ (7)

寛貴を見上げて抗議すると、私を見下ろして眉を顰めた。

私に怒っているの?…どうして?


「…説明してくれないなら帰る」


「いいからここでおとなしくしてろ」


腕を解こうとすると、腕に力が込められて逃げられなかった。


「寛貴!ヤダっ」


もがいても腕は解けなくて、ジタバタしていると愁君に笑われた。

助けてよ!!


「…何してんだおまえら」


戻って来た葵から冷たい視線を浴びたけれど、そんな葵を見て由利ちゃんが私達に近づいた。


「梨桜、一緒にご飯食べない?良かったらお友達も一緒に」


由利ちゃんの言葉に尚人君の眉が顰められた。

そんな顔、しないでよ。私だって行きたくない。


「一緒に食べよう?私、梨桜と仲直りもしたいの。わだかまりが残ったまま梨桜が東京に行っちゃって、後悔したんだ」


今、この場でそれを言うんだ…由利ちゃんは本当に変わってないね。

意味深な発言をしたせいで、皆が私を見ていた。


「東堂!」


「タカちゃん!?」


名前を呼ばれて吃驚した。

寛貴の腕の中で、目いっぱい首を捻って声のする方を向いたら、ジャージ姿で髪の毛が濡れているタカちゃんがいた。


「東堂、コイツ何とかしてくれよ。3分で来なかったら埋めるって言いやがった!」


葵を指差しながら膝に手をついて、荒い息を繰り返しているタカちゃん。もしかして、クラブ活動の途中だったんじゃないの?


「葵!」


「やればできんじゃねぇか」


「そうじゃないでしょ!何考えてるの!?」


呼吸が整ってきたタカちゃんは、顔を上げて私達を見ると顔を強張らせて私を見た。

優しいタカちゃんは『大丈夫か?』目でそう言ってくれていた。


タカちゃん、大丈夫じゃないかも。…どうしよう?


「帰るぞ」


葵が言うと、寛貴が腕を解いた。

二人の中では通じ合っているらしい。


「え?まだ途中だよ」


葵は私の腕を引きながら寛貴を見た。


「おまえ、矢野と面識あったよな」


「ああ。梨桜の事は安達に伝えておく」


大男二人が私の頭の上で会話をしている。前にも同じことがあったよね?


「頼む。愁、後の事頼んだぞ」


「了解。梨桜ちゃん、後でね」


私の分からない所で話が通じ合っているこの男達、いつもの事だけど…どうして私を無視するの!!


「梨桜ちゃん、後で抜け出して遊びに行こうね」


拓弥君に手を振られると葵の腕が私の腰に回された。


「タカちゃんに変な事したら許さないからね!」


私の言葉にギョッとした顔をするタカちゃん。「本当に許さないんだから!」と繰り返して言うと、寛貴が“早く行け”というように手を振った。


「またね、梨桜ちゃん」


愁君にも手を振られ、葵に引きずられるようにしてレセプション会場を後にした。



「葵、携帯返して」


「今は必要無いだろ」


タクシーを待っている間、葵に携帯を返せと抗議中。

タカちゃんに連絡をした私の携帯を葵は何故か返してくれない。


「円香ちゃんから連絡が来るかもしれないでしょ?返して!」


「うるさい。没収だ」


「梨桜!」


葵に掴みかかって携帯を奪い取ろうとしていると名前を呼ばれた。

その声に駆けだしたかったけれど、我慢をして振り返ると尚人君と由利ちゃんがいた。

もしかして、わざわざここまで来たの?


「一緒にご飯…食べよ?」


チラリと葵を仰ぎ見ると、やっぱり不機嫌そう。私の視線に気が付いて葵も私を見下ろして『絶対ヤダ』と目が言っている。


「ごめんね、都合が悪いんだ」


「え~…梨桜と話がしたかったのに」


嘘ばっかり…葵を狙ってるんでしょ?

葵がまた尚人君を見ていた。葵の気が逸れているうちに…

胸ポケットに入っていた私の携帯を取り返すと「梨桜!」と怒ったけれど、自分の携帯を取り返して何が悪いの?


「梨桜と宮野君て友達。だよね?凄く仲がいいんだね」


由利ちゃんが上目遣いに言う様子を私も葵もシラケた気持ちで見ていた。

葵は何て答える?私は葵に合わせるよ。


「オレと梨桜は友達じゃねえよ」


「梨桜は付き合ってないって」


「そんなのあんたに教える義理はねえだろ?オレに構うな、うぜぇ」


葵の冷たすぎる言い方に、由利ちゃんはビクッと肩を震わせた。

そんな言い方したら女の子は泣いちゃうよ。


「泣いたからってどうなるんだよ?鬱陶しい女だな」


目に涙を浮かべている由利ちゃんに吐き捨てるように言う葵。

冷たい、酷過ぎるよ?


「葵!」


「シラケた。ホテルに行くぞ」


窘めようとする私を強引に引っ張り、漸く到着したタクシーに私を押し込んだ。


「葵、あんな言い方は酷いよ」


私に続いてシートに座った葵に言うと、私を見て鼻で笑った。


「おまえは嘘泣きかどうかも見分けがつかないのか?」


そう言われて後ろを振り返ると、タクシーを睨んでいる由利ちゃんがいた。

葵、見抜いてたの?


「梨桜」


一気に疲れを感じてしまい、シートにもたれるとピタリと私に視線を当てたまま、ニヤリと笑った。


この笑い方、すっごく嫌な感じ。タクシーから降りようかな…


「なに」


「洗いざらい、吐け」


運転手さんに『停めて下さい!』と言おうとしたら、大きな手で口を塞がれた。


「オレに隠し事ができると思うなよ?」


「……」



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