背中合わせ (6)
「梨桜ちゃん、紹介してくれる?」
困り果てている私を助けるように愁君が声をかけてくれた。
「あ、うん。この3人は中学の同級生で、遠藤 由利ちゃん、坂本 尚人君、高橋 雄太君。葵、いい加減離して!」
3人は私の周りにいるイケメン幹部を見ていた。
尚人君は私を羽交い絞めにしている葵をジッと見ていた。きっと葵も睨み返すように彼を見返しているに違いない。
「こんにちは」
にこやかに笑う彼女は外向きの顔だった。さっきまでのしおらしい顔はどこへいったの?
漸く離れた葵に絞められた首をさすりながら今度は尚人君達に彼等を紹介した。
「それで、こっちが私と同じ学校の藤島寛貴君と大橋拓弥君。こっちは違う学校だけど生徒会で交流している三浦愁君と宮野葵…「由利です。梨桜とは仲良しでいつも4人で遊んでたんです!」
葵は私の弟だよ。と説明しようとしたら由利ちゃんに遮られた。
本当に、彼女は今でも変わらないね。
満面の笑みの彼女とは対照的に寛貴と葵が不機嫌そうな顔をしてる。さっきからずっとこの調子。
「梨桜、ちょっと来て!」
由利ちゃんに腕を引かれて彼等から離れた。
「どうしたの?」
「ちょっと!何なのあのイケメン達!全員友達?」
噛みつかれそうな勢いの彼女に軽く身を引きながら「そうだよ」と返事をすると、興奮しながら「やっぱり東京はレベルが違うわね」と独り言のように呟いていた。
彼女に葵との関係を言っておいた方が良いのか、この興奮ぶりを見ると言わない方が良いのか…
悩みどころだね。
「アド知りたい!」
顔を近づけて力一杯、言われた。
気持は分かるけど、それをやったら私の命は危険にさらされるからできないよ、ごめんね。それに、由利ちゃんは…
「由利ちゃん、尚人君と付き合ってるんじゃないの?」
そう言った途端、意味深な顔で私を見て笑った。
「まあね。でも、秋の修学旅行で東京に行った時に遊べるかもしれないでしょ?」
そういう発想は前から変わってないね。苦笑いが浮かんでしまった。
だから、心のこもらない謝罪はいらないって言うんだよ。
「私からは言えないけど頑張ってね」
「え~梨桜協力してくれないの?‥まあいいわ、宮野君超タイプ!彼女いるのかな、知らない?――ねぇ、まさか梨桜と宮野君って付き合ってないよね!?」
いきなり飛躍する彼女の話についていけなくて作り笑いが消えてしまった。
「付き合ってないよ。葵に彼女がいるかどうかは知らない」
修羅場は目撃したことあるけど。
そう言えば葵の好きなタイプってどんな子なんだろう?
「‥まあいいわ、明日もあるし。きっと話すチャンスもあるわよ」
明日も会わなきゃいけないんだ。がっかりした気分を顔に出さないように気を付けながら由利ちゃんを促した。
「皆のところに戻ろうよ」
会場に戻ると、さっきよりも機嫌が悪くなっている葵と寛貴が居た。
何があったの?
愁君を見たけれど、小さく笑うだけで答えは教えてくれなかった。
「梨桜、行くぞ。安達が待ってる」
寛貴に腕を掴まれてその場を立ち去ろうとすると、葵が私の肩に手を置いて引き留めた。
「待て。梨桜、矢野に連絡しろ」
どうして今タカちゃん?
「葵?」
「ああ、そうだな。梨桜、ここに呼べ」
寛貴が葵に同調した。
この二人が同じことを言い出す時って、私にとって良いことが少ないような気がするんだよね…
オレ様な大男二人に挟まれてしまい、愁君に助けを求めると「オレも矢野君に会いたいから電話して」と笑顔で言われてしまった。
由利ちゃん達が私達のやり取りをじっと見ていたけれど、二人ともその視線を無視して私に詰め寄った。
「早くしろ」
「梨桜?」
葵と寛貴に急かされてタカちゃんの番号を押すと葵に携帯を奪われた。
「ちょっと、え?」
葵は「梨桜を逃がすなよ」そう言うと携帯を持って離れた場所に行ってしまった。
何?何があったの!?『逃がすな』なんて言われれば逃げたくなるのが普通だと思うんだけど。
……逃げてもいい?
レセプション会場の出口を探すと、がっしりと首に腕が回された。
もう!それはイヤ!!
「逃げられると思ってんのか?」
.