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秋桜  作者: 七地
161/258

背中合わせ (5)

屈託のない笑顔を前にして『久しぶり』の一言が出てこなかった。


「やっぱり東堂だ!」


笑おうとしたけれど、少しだけ引き攣ってしまった。


「雄太君‥」


笑顔で駆け寄ってくる雄太君の後ろに誰もいない事を確認してホッとしながら、葵達も傍にいない事を確認した。


「久しぶりだな!東京から来たのか?」


彼と会うのは、中学を卒業して以来だろうか?

あの頃よりも背が伸びて男っぽくなったね。


「うん」


前と変わらずに、笑顔で話しかけてくれる中学の時のクラスメイト。

久しぶりの再会に喜んでくれている彼には悪いけど、私は早くこの場から立ち去りたかった。


「元気だったか?東堂一人なのか?」


女子高生の群れをチラリと見てから雄太君の方を向いて首を横に振った。

葵達は女の子達を振り切ろうとしている。


「同じ学校の人もいるけど、女の子に捕まってるの」


「え?」


「一緒に居ないと心配するから。中学の友達と一緒に居るって伝えてくるね」


雄太君は少し考えていたようだったけど、頷いてくれた。

ごめんね。

覚悟はしたつもりだけど、急すぎて心がついていかないの。ここにいたら会ってしまいそうだから…もう少しだけ時間が欲しい。


「雄太、急に走って行かないでよ!尚人っいたわよ!」


葵達の所に行こうとしたら、良く通る声の女の子が私の行く手を塞いだ。

ああ‥私って、本当に運がないなぁ…。


「…梨桜?」


私には気づかないで!そう思ったけれど、彼女は私を見つけて声をかけた。


もう少しだけ、そう思ったけれどそれが許されないなら仕方がない。

覚悟を決めて声をかけた彼女の方を向いた。


「久しぶりだね、由利ちゃん。尚人君も久しぶり」


葵が見ていたら『変な顔』って言われるような気がする。自分でも引き攣っているのが分かったけれど笑顔を作った。


「梨桜、やだ‥東京に行ったって聞いて――体は大丈夫なの?」


由利ちゃんの後ろにいた尚人君が私をじっと見ていた。

雄太君程じゃないけれど、久しぶりに見た…男っぽくなったと思うけど、あまり変わってないね。


「挨拶もしないで引越してごめんね」


「梨桜」


尚人君に名前を呼ばれて顔を上げると、視線が合った。

ねぇ、『どうして何も言わないで東京に行った?』今もそれを聞きたいと思ってる?


私が尚人君から目を逸らせないでいると、苛立ったように由利ちゃんが一歩前に出てきた。


「私、梨桜にあや「由利!」」


由利ちゃんの言葉を尚人君が遮った。

彼女は悔しそうに唇を噛み、私を睨んだ。それを見ていた雄太君が眉を顰めている。


「謝って欲しいなんて思ってないよ」


心から悪いと思っていない謝罪はいらない。


「‥都合がいいって思うかもしれないけど、ちゃんと梨桜と向き合いたかったの」


尚人君は由利ちゃんを信じられない、そう言っているような目で見ていた。

私も信じられないよ…私がいいって言っているのに


由利ちゃんが欲しい言葉をあげるから、お願いだから友達のフリをするのは止めて…


「由利ちゃんが気に病むことではないんだよ?由利ちゃんと尚人君が仲良くやってくれたら私は嬉しいよ」


由利ちゃんに笑いかけたけれど、彼女の視線は私から大きく逸れていた。

相変わらずだね…溜息をついて彼女を見ると、逸れていた視線が私に戻った。


「由利ちゃん、聞いてた?」


一体何を見ているのか、目を見開いてこちらを見ているけど、私の話は耳に入っていないらしい。


がっかりする…。


「おい…」


突然聞こえた不機嫌そうな声。

カッコイイ男の子に目がない由利ちゃんと、纏わりつかれるの大嫌いなこの男…面倒な事になりそうな気がする。ううん、絶対に面倒な事になる!


どうやってこの場から離れようかと考えていたら、長い腕が首に巻き付いた。


「眺めてないで助けろよ」


「珍しい光景だったから、つい…」


「つい、じゃねーよ。梨桜のせいで酷い目に遭ったぞ」

「薄情者」


葵だけじゃなく、寛貴からも責められて額を小突かれた。


「私のせいじゃないでしょ…葵、苦しいよ!」


軽く首を絞められて、苦しくて腕を叩いた。


「梨桜ちゃんの友達?」


拓弥君が由利ちゃんに笑いかけると彼女は頬を赤らめ、尚人君は冷めたい目でそれを眺めていた。



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