背中合わせ (4)
「梨桜」
寛貴に起こされてぼーっとしていると、目の前に先生の顔が出てきた。
「東堂、余裕だな」
「…」
先生の皮肉も寝起きの頭には効き目が無い。
“弁論大会”初体験の私に『参考になるから読みなさい』と渡してくれた去年の大会で発表された作品を読んでいたら、お約束通り寝てしまった。
飛行機の中でも、空港から札幌までの移動中もしっかりと寝てしまった。
「先生は期待しているからな!」
やけに力のこもった言葉をかけられて、気の抜けた愛想笑いを返してしまった。
「梨桜ちゃんの荷物、それだけ?少なすぎないか?」
私が手にしている荷物は小さなバックと制服が入っている袋だけ。
「葵と一緒なの」
拓弥君に聞かれて、迎えに来ているはずの葵を捜した。
同じ飛行機に乗れなかった私は、葵に荷物を託し葵が乗った便から数時間後のフライトで北海道へやって来た。
改札口の向こうに立っている葵を見つけた。
今までは葵がこの改札を抜けて、私があそこに立っていたのに…今日は逆だね。
葵に駆け寄ると、「走るな」と小突きながら私の荷物を持ってくれた。
「途中で気分が悪くならなかったか?」
「ずっと寝ていたから大丈夫だよ」
葵に、右へ左へと誘導されてタクシープールに向かっていると「仲がいいな」と安達先生が感心していた。
「一度ホテルに荷物を置いて制服に着替えてレセプション会場に行くぞ」
先生の言葉に小さく息を吐いた。
会ってしまったその時は…覚悟を決めてやってきた札幌。
…とうとうここまで来ちゃった。
目的地に着いてタクシーを降りた。
葵の隣で大きな校舎を眺めていると、先に着いていた寛貴が私の隣に立った。
「マジでデカい学校だな」
葵の言葉に頷いた。本当に大きな学校。
タカちゃんから、1学年だけでも紫苑の倍の人数が居るって聞いた。
行きたくないな…覚悟を決めたのに、目の前にすると怖気づいてしまう。
「梨桜ちゃん、もしかして緊張してる?」
拓弥君に聞かれて慌てて首を横に振った。
葵に感付かれたくない。知られたら…きっと葵はキレてしまうから。
「ここからは学校毎の行動だ。行くぞ」
寛貴に背中を押されて一歩前に出ると「そんな顔をするな」と小さな声で言われた。気を取り直して後ろを振り返り「後でね」と葵と愁君に手を振って会場へ向かった。
会場には大会に参加する学校が集合していて賑やかで、男子生徒も、女子生徒も真面目そうな生徒ばかりだった。
指定された席に座ると、露骨に視線を向けられた。
殆どが私の両隣からイケメンに挟まれている私へと動き、いつも通り“なんであんたが”と甘い視線から鋭い視線へと切り替えられた。
大会を主催している会社の挨拶が終わり歓談の時間に移った途端、女子高生が私達に向かって突進してきた。
「あの、紫苑学院の方達ですよね?」
あっという間に私は隅に追いやられ、寛貴と拓弥君は女子高生に取り囲まれてしまっている。
すぐ傍を見れば葵と愁君も女子高生に取り囲まれている。
ここにいる子達はまさか彼等が不良チームの幹部だなんて思っていないだろうから強気だ。
珍しい物を見れた気分で私は女の子まみれになっている4人を観察することにした。
葵と寛貴が露骨に嫌な顔をしているのはいつものことだけど、女の子の許容範囲が広い拓弥君と、いつも優しい愁君が群がる女子に顔を引き攣らせている。
明らかに嫌だと顔に書いてある4人を前にしてもひるまない彼女達。
…女子高生パワーって凄い。
葵と目が合って『がんばれ!』と手を振ったら、すぐに『ふざけんな、助けろ』と返って来たけれど、この群れに飛び込んで行く勇気は無い。
自力で脱出して下さい。
「東堂、東堂じゃないか!?」
急に聞こえた声に驚いて呼ばれた方を見ると、久しぶりに見る顔があった。
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