背中合わせ (1)
麗香ちゃんが無事に25メートルを泳げるようになり、単位も落とさずに済んだ。
良かったんだけど、水に入れないのは寂しい。
つまらない…つまらなーい!!
生徒会室でテーブルに頬をつけてだらけていると携帯が鳴った。
「…はい」
『オレからの電話はつまらない?』
誰からの電話か、確認しないで出たら甘い声で囁かれた。
顔が見えなくても、声だけでも王子様。
「つまらなくないよ」
『なら、良かった。梨桜ちゃん、デートしない?』
愁王子のお誘い = 美味しい
私はニッコリとしながら返事をした。
「する。どこに行く?」
『この前行きたいって言っていたカフェ』
紅茶とシフォンケーキが美味しいって聞いたカフェ。愁君、覚えていてくれたんだ!
「行きたい!」
『その後に買い物に付き合ってくれる?』
「うん。終わったら連絡するね?」
愁君と美味しいケーキを食べて買い物をして…楽しみが出来た。
『生徒会の仕事なんか適当に切り上げて帰っておいで』
「はーい。後でね!」
定番のダージリンティーもいいけど、アールグレイティーも捨てがたい。
凄く楽しみになってきた。
拓弥君がテーブルに顔を横に向けて、まだテーブルに伏せたままゴロゴロしている私の顔を覗き込んだ。
「どうした?梨桜ちゃん」
生徒会室の大きなテーブルに突っ伏したまま答えた。
「愁君とデートするの」
「あぁ、餌付けな」
その言い方にムッとして手元にあった輪ゴムを“ピン!”と拓弥君に向けて飛ばした。
「そういう言い方しないで!」
笑いながら輪ゴムをキャッチした拓弥君は、逆に輪ゴムを私に投げ返した。
「どんだけ手懐けられてんだよ」
「そういうんじゃないよ、カフェでお茶して買い物に行くんだもん。デートだよデート!」
笑いながら「浮気者」と楽しそうに言う拓弥君に“いーっ!”としてやるとゲラゲラと笑い出した。
「いつまで笑ってるの!」
「梨桜ちゃんをからかうとおもしれぇな」
余計悔しい…
もう知らない、早く終わらせて帰るんだから!
体を起こして、テーブルに積み上がっていた資料を整理し始めると勢い良く扉が開いた。
「喜べ東堂、北海道だぞ!」
部屋の入口に安達先生が立っていて、隣には寛貴が立っている。
「北海道?」
どうして北海道?
先生、何を言っているの?
「札幌に連れて行ってやる。懐かしいだろ!」
先生は私が喜ぶと思っているのか、ニコニコしながら私を見ていた。
「難しい顔をして、どうした?」
寛貴が私の顔を見ながら眉を顰めていたけれど、私の眉も顰められているかもしれない。
来週、札幌に行く男達がいる。
「何時ですか?」
「急で悪いが来週だ!」
悪いと言いつつ、胸を張って言う先生。
「…」
手で頬を覆って先生に背を向けた。
これって、偶然?
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