Flowers (3)
放課後、生徒会室で担任の安達先生に捕まった。
先週末が提出期限だった進路調査の用紙を提出していないから…
「東堂、先生だけに話してくれ」
ソファに座り、膝の上に肘をつきながら私をじっと見ている先生。
私が話すのを待っているらしいけど、“先生だけ”って同じ空間に生徒会のメンバーがいるんですけど?
「前に慧君が言ってたじゃないですか。あの通りです」
毎日学校に行く。それを維持していく事が今の目標。
それなのに先生達は『文系か理系か』そればかり聞いてくる。
「でもな、将来の事だぞ?先生は大事な事だと思うぞ?」
目の前で身を乗り出している先生。
すごく真剣で切実な先生には申し訳ないけど本当に考えてなかった。
「考えなきゃダメですか?」
そう聞くと、大きく頷いた。
「来年のクラス替えがあるからな」
う~ん…
私が腕を組んで頭を悩ませていると、先生の隣に拓弥君が座り私の隣に寛貴が座った。
二者面談なのに、外野がいるこの状況で何をどう考えろって?
「この選択で残りの二年間が決まるからな。良く考えた方がいいぞ?」
拓弥君の、不良らしくないその台詞に笑ってしまった。ちゃんと進路の事考えているんだね。
「東堂、笑い事じゃないぞ。…よし、先生が質問する。取りあえず答えてみなさい」
「はーい」
取りあえずね、取りあえず答えてみよう。
「高校卒業したら働きたい」
「うーん…それはまだ早いかな」
率直に思った事を答えた。
いつかは就職するけど、何をしたいのか良く考えて、準備をしてから就職をしたい。その為には高校卒業で就職するのは躊躇われた。
「よし。どうせ勉強するなら短大の二年間より大学で四年間勉強しようと思う」
「はい」
二年はあっという間だよね。どうせ勉強するなら四年間学びたい。
「国立と私立なら、国立がいいんじゃないかと思う」
そうだなぁ…今は私立の高校に通っているけど、ウチは双子だから教育費は常に二倍かかってるんだよね。
「国立。かな」
隣から、呆れたようにため息をつかれた。
「誘導尋問だな…」
「藤島!」
寛貴の言葉にムキになっている先生…
え?これって誘導尋問だったの?
「どうせ、おっさん連中が国立の合格率を上げたいって騒いでんだろ?」
拓弥君の言葉に先生は「進路指導の先生に言われたから聞いてるんじゃないぞ!」とまたムキになっていた。
先生ってば、嘘がつけないんだから…
「上から押さえつけられて、生徒は言う事を聞かない。教師も大変だな」
クッと笑う寛貴に先生はがっくりとうなだれていた。
「藤島、おまえが言うなよ…大変だと思うならオレに協力しろ」
先生、私もそう思う。
ところで、この二人はどういう進路を希望しているんだろうか?
「ねぇ、寛貴と拓弥君は?」
大学を卒業してサラリーマンになる二人を想像できない。会社勤めとか、できるんだろうか…
「東堂、コイツらの事はいい!次の質問行くぞ!」
え、まだ続きがあるの?
もういいよ、国立志望にしておく。
先生が、グイッと身を乗り出した。
「東堂、これが大事だぞ。2年生に進級したら「安達先生がここにいるって聞いたんですけど…」
ドアが開き、麗香ちゃんが入ってきた。何故か泣きそうな顔をしている麗香ちゃん。
「どうしたの?」
「先生、梨桜ちゃん…どうしよう~!?」
私に駆け寄ってきて抱きついた麗香ちゃん。いきなりすぎて、彼女の身体を支えきれなくてよろけてしまった。
「笠原…梨桜ちゃんを押し倒すなんて、大胆だな」
麗香ちゃんに押し倒されたようにソファに倒れ込んでしまっている私。顔だけを横に向けて、向かいに座っている先生を見ると、私達を見て固まっている。
「梨桜ちゃん、どうしよう!!」
私に抱きついたまま取り乱している麗華ちゃん。肩を軽く揺さぶってみたけれど、「ヤダ」と興奮している。
「取りあえず、落ち着こう。ね?」
「落ち着けないよ!私、留年しちゃう!!」
え!?何でいきなり留年!?
やっぱり私に抱きついたまま「留年したくない!」と繰り返す麗香ちゃん。
「麗香ちゃん、大丈夫だから。落ち着いて」
背中を撫でながら言うと、麗香ちゃんは泣き出してしまった。
.




