Flowers (2)
電話の向こうで授業が始まるチャイムが鳴ったから教室に戻った。
席に着くと、先生がまだ来ていなくて女子生徒はおしゃべりに夢中。
「ねぇ、噂で聞いたんだけど、今度レディースが大きな集会するんだって!」
「レディースって怖くない!?」
「「怖いよねーっ!!」」
…レディースが怖いなら自分の学校はどうなの?
怖いの基準が間違ってると思うよ。
「東堂さんは集会とかに出るの?」
小橋さんに聞かれて、首を横に振った。
「私はメンバーじゃないからいつも部屋で大人しくしてるよ」
一度だけ、集会がどういうものか見てみたくて覗いたら、強面やイカツイお兄ちゃんの集団に吃驚して慌てて葵の部屋に逃げたことがある。
後からコジ君に聞いたら、『あれは系列の幹部達だから大丈夫ですよ』と笑っていたけれどあのときはびっくりしたな。
一人一人と話すと怖くないんだけど…集団でいられると迫力がありすぎて声をかけるのを躊躇ってしまう。
葵があの集団のトップなのが未だに不思議だ。
「そのレディースって元々紫垣の追っかけしてたらしいよ」
「硬派なチームだから追っかけとか許さないでしょ」
硬派。ねぇ…この前のキャバクラでの二人からはちょっと遠いかなぁ
「今は朱雀と青龍の追っかけしてるんでしょ?」
「硬派なところは受け継いでいるから相手にされないのにね~」
硬派なの?
寛貴と葵は煩いのが嫌いなだけのような気がする。世間ではそれを硬派と呼ぶの?
「東堂さん、どうしたの?」
「なんでもないよ」
余計な事を言ったら怒られそうだ。
教室の扉が開いて、先生が「遅れてごめんなさいね」と言いながら入ってきた。
次の調理実習のテーマを言われて、笑ってしまった。
『夏疲れを癒す』って先生は今年の夏に相当疲れちゃったんだね。
「先生、図書室に行って調べてきてもいいですか?」
「いいわよ。5分前迄に戻って来てね」
先生に許可をもらって、献立の為の調べものをする為に図書室に向かった。
小鯵の南蛮漬けときのこの御味噌汁に玄米ご飯
ちょっと高校生らしくない?
のんびり構えていたら、授業が終わるチャイムが鳴ってしまった。
5分前に戻って来るように言われてたのに!!
急いで家庭科室に戻ると、廊下に男子生徒が居た。
「裕子ちゃん、次は視聴覚教室に移動だろ?迎えに来た」
裕子ちゃんは5組の橘さんの名前。橘 裕子ちゃん。
「沙織も行くぞ」
沙織ちゃんは、5組の不破 沙織ちゃん。
5組って凄い!移動教室だからってクラスの男の子が迎えに来てくれるんだ!!
この前言っていた通りだね。お姫様扱いだ…
2人は「ありがと!」と言いながら、教室から廊下へ出てきた。
女子生徒2人に対してお迎えが5名。凄いね、逆ハーだよ。
「こんなところで何してんの」
後ろからツン!と頭を突かれて振り返ると、拓弥君と寛貴がいた。
「家庭科の授業だったの」
家庭科室を指差すと、拓弥君に「調理実習?メニューは?」と聞かれて、図書室でまとめていたメニューを見せた。
「寛貴はどうしてここにいるの?」
「次の授業がそこの教室だから」
顎で家庭科室の隣の教室を指示した。
なるほど。
お互いに新学期になって授業の科目が変わったからね。
視線を感じて、そちらを見ると5組の男子生徒が私達を見ていた。
「梨桜ちゃん、デザートが入ってない」
「無いよ」と言ったら不満げに見つめられた。いつの間にか拓弥君のデザート担当になってる?
「何か用か?」
「いえ!なんでもないです」
慌てて寛貴と拓弥君に頭を下げる男子達。
橘さんと不破さんが私に手を振ってきたから振り返すと、男子達がこちらをチラチラと見ていた。
寛貴と拓弥君を傍で見るのが珍しいんだね…
「先輩こんにちは。梨桜ちゃん、教室に戻ろう?」
麗香ちゃんに声をかけられて「うん」と返事をして寛貴と拓弥君に「じゃぁね」と手を振った。
「不破さんと橘さんにお迎えが来てたね」
麗香ちゃんに「すごいね」と言うと、苦笑いをしながら教えてくれた。
「夏休みに合コンしたでしょ?その話がクラスの子に知られちゃったらしいの。新学期になったらああいう状態なんだって」
クラスの男の子達が嫉妬したの?
「ウチのクラスには縁のない話だね」
「うん。先輩が怖いからね…」
ボソリと呟いた麗香ちゃん。「先輩?」と聞くと、少し唇を尖らせて「先輩は先輩だよ」と答えた。
麗香ちゃん、もしかして…
「麗香ちゃんも逆ハーしたいの?」
頬がほんのり赤くなった麗香ちゃん。
「梨桜ちゃん!私そんな事考えてないよ!」
ムキになって否定しちゃって…
女の子はお姫様になりたいもんね?
「可愛い、麗香ちゃん」
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