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秋桜  作者: 七地
152/258

Flowers (1)

暦の上では秋。

それでもまだまだ暑い…こういう日は女子校時代が懐かしい。


「あっつーい」


新しく作ってもらった真夏用の制服。

これを一度着たらセーラー服が着られなくなってしまった。


「ホントに暑いよね…」


特別教室に移動してきた私達は家庭科の授業で女子生徒しかいない。

それをいいことに、リボンを外して襟元も開いて団扇でパタパタと扇ぐ。

周りではスカートをまくって扇いでいたけど、それは控えておいた。


女子だけの教室なんて、こんなものだよね…



「東堂さん、この前はごめんね?」


パタパタ扇いでいると、5組の橘さんに謝られた。

夏休み中の合コンの事を言ってるのだろう。


うん、アレは怖かったよ。


「笠原さんもごめんね」


「私は平気だけど…」


麗香ちゃんが私をチラリと見ると小橋さんが「なに、何があったの?」と興味津々だった。


「友達に頼まれて合コンしたんだけど…ね?」


橘さんが麗香ちゃんに目配せをすると、麗香ちゃんが私を見た。


「私は大丈夫だよ。それよりも、葵は口が悪いから怖かったでしょ?ごめんね。合コン相手の男の子達にも悪い事しちゃったね」


「本当に大丈夫だったの?」


「うん」


大変だったのは席を移動したその後だよ。

口が滑って合コンに行った事を言ってしまった…

あれから葵は思い出す毎に札幌での事を聞いてきてちょっと困ってるんだよね。


「でも、すっごくカッコ良かった!宮野さんを見られたのも嬉しかったし、先輩の私服を見られてラッキーだったよ」


橘さん、前向きだね…

羨ましいよ。


「どうして東堂さんが宮野君の事で橘さんに謝るの?」


他のクラスの女子生徒が少しムッとしたように私に聞いてきた。


「え、だって」


麗香ちゃんが言葉を続けようとするのを制した。


「そうだよね、ごめんね」


麗香ちゃんは“どうして?”そんな顔をしているけれど、こういう時に私が葵の姉だからって言っても結果は同じになるんだよ。

双子の私も嫉妬の対象にされちゃうの。



授業が始まるチャイムが鳴り、救われた気分で自分の席に戻った。




授業が終わってすぐに葵から電話が来た。

終わるタイミングを計ってかけてきたらしい。


「どうしたの?」


麗香ちゃんから小声で『宮野君?』と聞かれて頷いて返事をした。


『来週、学校の行事で札幌に2泊することになった』


急な話だね。

でも、学校行事なら仕方ない。


「ふぅん…行ってらっしゃい」


『おまえも学校休んで来るか?』


凄く真面目な声で何を言い出すんだろうか…自分の学校行事に私を付き合わせるつもり?


「自分の言っていること、ちゃんと理解してる!?」


『梨桜を東京に一人残したら危なっかしいだろーが。目の届くところに居ろ』


携帯を耳に当てたまま、ガックリと項垂れたくなった。

なんていうか…葵って頭は悪くなかったはずなんだけど、どうしてこういう突飛な事を思いつくんだろうか


「あのね…ねぇ、愁君と換わって?」


葵を説き伏せようかと思ったけれど、無理なような気がしてきた。


『何で愁なんだよ』


麗香ちゃんに『外で話して来るね』と小声で言い、私は人気のいない校舎裏に向かった。


「いいから、早く」


私は紫苑の生徒。葵は東青の生徒でしょう?どうして男子校の東青の学校行事に私がついて行かなきゃいけないの!

しかも札幌!遠すぎるでしょ!!


『葵、換われよ』


愁君の声が聞こえてホッとした。

これでまともな話ができる。


「もしもし、愁君?」


『梨桜ちゃん、驚かせてごめんね』


愁君の一言で落ち着くことができる。彼は本当に癒しの王子様だ。


「私こそごめんなさい。私は一人でも大丈夫だから、葵がバカな事をしようとしたら止めてくれる?」


『さっきからそう言ってるんだけどね…マジで梨桜ちゃんには過保護な奴だよ。無理だと分かっていても言わずにいられないんだと思うよ』


溜め息交じりに言う愁君にもう一度、ごめんなさいと頭を下げた。

絶対一番迷惑をかけているのは愁君だよね。


『まぁ、葵の気持ちも分かるよ。オレも一緒に札幌に行くから梨桜ちゃんを置いて行くのは心配なんだよね…遊びに来る?』


どうして同じ事言うの!?愁君だけが頼りなのに!


「愁君にも葵のバカが伝染ったの!?」


電話の向こうで愁君は楽しそうに笑っていた。


『冗談だよ』


「……」


決めた。

学校が終わったら、見張りと護衛を撒いて一人で美味しいお茶を飲みに行こう。



.


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