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秋桜  作者: 七地
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オトナの社会見学 (4)

涼先生の一言で解放された私。「帰る」とごねる私に慧君が皿を差し出した。


お皿の上に乗せられている可愛らしい“うさリンゴ”慧君はキャバ嬢に「可愛い」と言われながらコレを作っていたらしい。


「あら、慧さんてばこんなに可愛いのも作れたのね」


杏子さんは感心したように言い、さっきまではしゃいでいたお姉様達は静かに私達を見ていた。どうやら、杏子さんの前ではお行儀良くする事にしたようだ。


「梨桜、食べていいぞ」


ニコニコしながらリンゴを刺したフォークを持たせる慧君。


「…」


これで私の機嫌を直そうとしているらしい。


「懐かしいだろ」


「もう子供じゃないんだからね」


そうは言ったものの、懐かしくて手を出してしまった。今日の慧君は困った大人だけど、うさリンゴに罪はない。


この、“耳”が可愛いんだよね。


「ウチの双子ちゃんはウサギを作ってやるとご機嫌になるんだよ」


杏子さんに説明してる慧君はさり気なく葵の過去も暴露している。

葵に怒られても知らないから…


「アイツもこれでご機嫌になってたのか?」


涼先生の疑問に頷きで答えたら…涼先生、大爆笑。


葵、ごめんね。

もしかしたら、葵のイメージ壊したかも。でも、嘘はついてないからね?


あーん、と“うさリンゴ”を口に入れると、涼先生も“うさリンゴ”を食べていた。イケメンと“ウサギリンゴ”…面白い組合せかもしれない。




「梨桜、迎えが来たら先に帰れ」


腕時計を見た慧君が唐突に言った。

今日の慧君はホントに分からない。私はココに何をしに来たの?


“連れて来られた”それだけ!?


「ふふっ、今日は念願の梨桜ちゃんに会えて嬉しかったわ。梨桜ちゃん、困った事があったら言ってね?可愛い子は大好きよ」


杏子さんは艶やかに笑んだ。

見惚れそうになりながら笑みを返すと「可愛いわぁ」としきりに感激していた。


どうも調子の狂う美人だ。こんな美人に「可愛い」を連発されると、どう反応していいのか分からなくなってしまう。


「杏子、頼んだぞ」


「初代の頼みなんて貴重だわ」


笑みを浮かべながら「お任せ下さい」と返事をしている杏子さん。

慧君は何をお願いしたんだろう?


「梨桜ちゃん、もう大丈夫よ?」


二人のやり取りを眺めていたら、杏子さんが私の手を握った。


「え?」


何を言われているのかが良く分からなくて、涼先生に助けを求めるとやっとここに来た理由を教えてくれた。


「今日梨桜ちゃんをこの店に連れてきたのは杏子に会わせたかったからだよ。葵と藤島に言えないような困った事があったら杏子に相談すればいい」


理由は分かったけれど、納得できない。


「え、どうして?」


そう言うと涼先生は私の肘に手を当てた。

そこは朱雀のファンに突き飛ばされて転んだときに擦りむいたところ。


慧君と涼先生にあの事が伝わっていたの?だから杏子さんに私の事を頼んだの?


「ここいらで杏子に逆らうバカな女はいないからな」


慧君にぎゅうっとしがみついた。

どうしてそんなに私を甘やかすの?慧君が優しすぎるからいつまでたっても離れられないんだよ…


「大好き」


慧君から顔を上げて杏子さんに頭を下げた。


「杏子さん、ありがとうございます」


「梨桜ちゃんったら…食べちゃいたいくらい可愛いわねぇ…」


私を見ながらポツリと言った言葉に固まってしまった。


「杏子!手ぇ出したらただじゃおかねーぞ!」


杏子さんは慧君に不敵な笑みを浮かべていた。


「…」


最後の言葉は、聞かなかったことにしておこう…



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