遭遇 (2)
昨日、葵には病院での出来事は話せなかった。話したら葵と愁君が大騒ぎするだろうから‥
藤島寛貴と目が合って‥まっすぐな瞳だな‥と思った。
「梨桜、放課後またな」
「ん。またね」
車から降りて学校まで歩く。
一体いつになったらラッシュの電車に耐えられるようになるのかな
「お~、東堂さんおはよう!」
海堂悠だった
「おはよう、海堂君」
「おはようございます!悠さん」
海堂悠の後ろから飛澤章吾が来た。なるべく顔を会わせないように彼の方を見なかった。
「はよ、章吾。‥東堂さん、こいつ飛澤章吾。隣のクラスだよ」
昨日の今日で今は会いたくなかったな
「飛澤君、おはよう」
声が少し強張ってしまったのは仕方がないと思う
「‥おはよう、東堂さん。ってそれより悠さん!オレ昨日会ったんですよ」
飛澤章吾は興奮気味に海堂悠に話し出した
「なに?」
少し面倒くさそうに彼は聞いた
「ハンカチの彼女に会いました!」
私の話ですか?
「あぁ!?マジで!?」
「寛貴さんと拓弥さんが一緒にいたんです。二人とも追いかけたんですけど少しのところで逃げられてしまって」
海堂悠が食いついている。‥やっぱり、私って追われる身なの?
私はさりげなく海堂悠に手を振って彼らから離れた
「すっげー美少女でした!かわいかった~」
その眼、節穴なんじゃないの?
突っ込みどころ満載の飛澤章吾を少し哀れに思いながら教室へ向かった。
1時限目は体育。私は授業に出られないから自習。
なんとなく教室にいたくなくて英単語帳を持って屋上へと向かった。
この進学校で1時限目からサボる人はいないだろう!そう見込んで屋上へ来た。
葵にはバカにされるけど私は高いところが好き。少し日陰になっているところで青空の下で英単語帳を広げた。
真面目に単語を覚えていると、風にのって香水の香りとタバコの香りが流れてきた。
私は今風下にいる‥という事は風上に誰かいるんだ。それも2人
「だりぃ~‥帰りてぇ」
不良発言だ
「――帰れば?」
生徒会長と副会長‥いや、今は総長と副総長と言った方が正しいかもしれない。
「章吾、今日も探すってさ。悠も興味あるみたいだから一緒に見回りするみたいだぜ」
‥勉強する気無くなった。私は単語帳を閉じたついでに目も閉じた。
「寛貴は興味ないわけ?」
「おまえはあんのか?」
「ある。あの宮野が溺愛する女ってどんだけイイ女だよ」
「‥」
馬鹿らしくて寝ていられない。あれは“溺愛”じゃなくて“過保護”っていうんです。
私は立ち上がってその場を後にすることにした。
「おい、出てこいよ」
風上から声をかけられた。気が付いてたのか‥
「出ていくタイミングを逃してしまいました。すみません」
声のする方に出ると、藤島寛貴と大橋拓弥がいた。
「悠のクラスメイトだったよね。さぼり?」
大橋拓弥が首を傾げて聞いた
「半分さぼりです」
ウソじゃない、自習だもん。場所が違うだけで‥
「どういう意味だ」
藤島寛貴が聞いてきた。
この男、すごく近寄りがたいオーラを持っている。
「自習だったんです。教室より屋上の方が気持ちよさそうだったんで‥」
「ね、オレ達の事怖くないの?1年の男たちなんてびびりまくるんだけど」
私はあなた達と同い年ですから。それに葵のところで慣れてるし‥
早く帰りたくて、素っ気ない態度をとった。
「怖がった方が良かったですか?」
ふっと大橋拓弥が笑った。少し冷たく、黒く。きっとこちらの方が彼の本質なのだろう。
「“がり勉メガネ”は仮の姿?」
「図書室にいるだけで“がり勉メガネ”ですか?ただの見た目じゃないですか‥私、がり勉じゃないと思いますけどね」
図書室にいる間中勉強をしているわけじゃない。時間をつぶしているだけなのだから
「面白いね~君」
「そうですか?‥・失礼してもいいですか?」
藤島寛貴は話に入らずに、ただ私を見ていた。
返事はもらえないらしい‥
「失礼します」
ぺこりと頭をさげて屋上を後にした。
昨日といい今日といい‥関わりたくないと思えば思うほど出会ってしまう。