オトナの社会見学 (3)
何を思ったのかリンゴを用意させて剥きだした慧君。
キャバ嬢達がその姿を見て「可愛い」とはしゃいでいる。
「慧さん、東京にはいつまでいらっしゃるんですかぁ?」
甘く可愛いらしく問いかける沙理さん。
「梨桜、いつまでいて欲しい?」
沙理さんを見ずにりんごの皮を剥く手を止めて私に聞いてきた。あからさまにムッとする彼女は私を軽く睨んでいるように見える。
「梨桜?」
沙理さんの視線を痛いほど感じながら俯いた。
分かってるクセに意地悪。ホントは帰らないでって言いたいのを我慢してるのに!
「オレと一緒に来るか?」
「葵と離れるのはイヤ」
涼先生が私の顔を覗きこんで宥めるようにポンポンと頭を撫でた。
「涼君、久しぶり」
落ち着いたトーンの女性の声がして顔をあげると美人さんが立っていた。
「よう、杏子。久しぶりだな」
慧君が艶やかな美人さんに声をかけると、杏子と呼ばれた美人さんは笑った。
「お久しぶりです、初代」
杏子さんがキャバ嬢達を一瞥すると、一瞬にして雰囲気が変わった。
ピリッと締まった感じというか…お姉様達が緊張している。
緊張しているキャバ嬢達をもう一度見回して、最後に私の上で視線を止めて目を細めた。
「この子が初代のお姫様?」
「そう。可愛いだろ?」
グイッと慧君に引き寄せられたと思ったら、杏子さんの前に出された。
慧君、美人の前で子供扱いは恥ずかしい!!
「はじめまして、杏子です。涼君とは古い付き合いなの」
「梨桜です。おじゃましてます」
ぺこりと頭を下げると、頬に手を当てて首を横に振りながらため息をついた。
子供が大人のお店に来ちゃ行けなかったんだよね、葵の所に帰ろうかな…
「梨桜ちゃん、可愛いわぁ…いつも人工的なものばっかり見てるから、こういう天然物を見ると癒されるわ」
え?どういう意味!?
「ふっ…ハハッ杏子、おまえ相変わらずだな!」
慧君がソファから転げ落ちそうなくらい笑っていて、慧君に抱えられている私もソファから落ちる!
「涼先生!」
隣に助けを求めると、杏子さんが私の手を握った。慧君に抱えられたまま杏子さんに手を握られている凄い状態。
大人のお店でこんなに騒いでいていいんだろうか…
「梨桜ちゃん、たまにはお店に遊びに来てちょうだい、お金の事は涼君がいるから心配しないで、ね?」
「えぇ…と」
急にそんな事を言われても困ります!
でも、取り敢えずこの態勢は苦しいんですけど…「ホントに可愛いわぁ」という杏子さんに「そうだろ!」と何故か偉そうに言っている慧君。
もう、ヤダ…訳わかんない!!
「私、帰る!」
私が宣言すると、涼先生がため息をついて慧君達を睨んだ。
「お前達、いい加減にしろよ?」
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