夏の××× (4)
「北海道か?」
寛貴の声がさっきよりも低くなった。
どうして私が合コンに行ったからってそんなに怒られなきゃいけないの!?
「『季節限定のケーキ食べよう』って言われて行くと、実は合コンだった。っていう事があったの。それだけ…」
「聞いてない」
葵が不満そうに私を睨むけど“ツン”と顔を逸らした。
「だって言ってないもん」
怒られるのが分かっているのに言う訳無いでしょ!?
「もん、じゃねぇ。札幌でおまえは何してたんだよ?女子校に行かせた意味がねぇだろ」
いや、女子校だからこそ合コンに走るんじゃないだろうか…葵ってば分かってるようで分かってないんだから。
葵とバチバチと睨みあっていると、麗香ちゃんが「梨桜ちゃん!」と呼びかけた。
「梨桜ちゃんはケーキを食べに行っただけだよね、合コンって知ってたら行かなかったよね?」
麗香ちゃんの言葉に救われた。
そうだよ、私はケーキが食べたかったから行っただけ!
「だから、合コンは好きじゃないって言ってるでしょ。ただの人数合わせに付き合わされただけだから!」
もう、これ以上怒られるのは嫌!理不尽だよ!?
いい加減にその総長オーラを引っ込めて!
「お前ら、その位にしておけよ」
愁君が両脇にいる二人を見据えると、葵が私の前にグラスを置いた。
いつの間にか運ばれていたグレープフルーツティー。
怒りながらも、私のお気に入りをオーダーしてくれていた葵に「ありがと。黙っててごめんね」と言うとそっぽを向かれてしまった。
可愛いのか憎たらしいのか分からない…
「オレ、腹減った…早く食おうぜ」
拓弥君の気の抜けたような声に両脇から溜め息が漏れ聞こえた。
溜め息をつきたいのは私なんですけど?
さっきまでの修羅場が嘘のようにごはんを食べていて、周囲からすごく注目されている。
「梨桜ちゃん、パスタは何がいい?」
愁君がいつものように私にオーダーを聞いてくれたけれど、寛貴が取り分けてくれたピザを頬張ったまま、『もう、無理』と首を横に振った。
「愁、ジェノベーゼ頼んで。あと、ボンゴレロッソ」
葵が勝手に決めると、愁君が眉をひそめた。
二人でパスタを食べに行くと、必ずと言っていいほど注文して食べ比べている“ジェノベーゼ”お腹いっぱいだけど、ここの味を確かめたい気持ちもある。
「またお前は勝手に決めて…梨桜ちゃんに聞けよ」
愁君、いつも気を使ってくれてありがとう。葵にお小言を言えるのは愁君だけだよ。
「うるせぇな、いいんだよ」
「おまえなぁ…」
愁君に小言を言われている葵を無視し、私と寛貴のお皿にサラダを取り分けた。
「このドレッシング美味しいね」
「気に入ったなら買って帰るか?」
寛貴にテイクアウトのメニューを見せてもらうと、幾つかある種類に目移りしてしまう。
「これも美味しそうだね」
今食べているのとは別なドレッシングも捨てがたい。隣の写真を指で示すと寛貴もメニューを覗き込んだ。
「それも頼めばいい」
メニューから顔を上げると、麗香ちゃんが拓弥君と楽しそうに話をしていて、葵が愁君に憎まれ口を叩き、愁君は余裕の笑みを返していた。
私と寛貴はドレッシングを物色している。
私達ってバラバラ…全然纏まりがない。
でも、一つのテーブルでご飯を食べていてさっきよりも美味しく感じられてしまう。
「梨桜、ドレッシングは2つでいいのか?」
寛貴に声をかけられてメニューに視線を戻す時に、さっきまで居たテーブルが視界に入った。
さっきまでの盛り上がりはなく、普通にご飯を食べているようだった。
「どうした?」
チラチラとこちらを見ている女の子二人を視界の端で感じ取りながら、少しだけ申し訳ないな、と思ってしまった。
「合コンを台無しにしちゃって悪かったかなって…」
寛貴も橘さん達に目を向けたけれどすぐに視線を戻し、口角を上げるとフッと笑った。
「拓弥が上手くやる。心配するな」
合コンに参加している拓弥君が容易に想像できすぎて、納得してしまう。
妙な説得力があるよね、安心してお願いしちゃうから。
「寛貴は行った事あるの?」
拓弥君と正反対な寛貴は、女の子の前でどんな顔をするんだろう?
素朴な疑問を投げかけた。
「あるわけねぇだろ。梨桜、二度と行けると思うな」
素朴な疑問を投げかけただけだったのに、恐ろしい宣言が返ってきてしまった。
どうしてそんなに横暴なの!?ムッとして睨みあったけれど…
「梨桜、分かったな?」
「…はい」
怖くて、返事をしてしまった。
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