夏の××× (1)
一夏の恋もいいと思う。
ちょっと背伸びをしてみるのも悪くない。
だって高校生の夏なんて今しか楽しめないんだから。
でもね、私を巻き込まないで、各自で楽しんでくれると嬉しいな…
名前を聞いたけれど、覚えていない男子Aが私の顔を見てニッコリと笑った。
「レナちゃん、あんまり喋んないね~」
テーブルの下で拳を握りしめて堪えた。
誰が“レナちゃん”よ、私は“梨桜ちゃん”!!
「もしかして緊張してる?」
オシャレなお店で女の子4人に男4人がごはんを食べる。
これって合コンっていうんだよね?
向かいの席に座る麗香ちゃんがオロオロしながら私の顔を見た。
“梨桜ちゃん、どうしよう?先輩に怒られるよね?”って思ってるでしょ。
こうなったら…
-5組の女の子から『女の子でごはん食べよ!』と誘われて来てみたら合コンでした-
そう言うしかないよ。
「レナちゃん、食べてる?」
「うん、ありがと」
そう聞かれて、愛想笑いを返してやると「レナちゃんて声可愛いね」と声がする。
食事をするときは集中したいの、味わって食べたいの!
放っておいてくれないかな…
「レナちゃん、飲み物は?」
さっきからレナ、レナ…なぜそう呼ばれているかというと、『ここは朱雀のシマだから、東堂梨桜のままだと不味いでしょ?だから今日はレナちゃんね』5組の橘さんと不破さんにメガネを渡されて“レナ”にされてしまった。
「紫苑の女子と合コンしたかったんだよ」
「貴重だもんな、紫苑の女子」
「急に合コンしようだなんて言うんだもん」
大変だったんだからね!と頬を膨らませて男の子達を見る、5組の橘さん。
とっても可愛い仕草だけど、嘘をついて集められた私と麗香ちゃんの立場はどうなるの…
「でも、朱雀にバレたら何か言われるんじゃねぇの?」
圧倒的に男子が多い学校だけど、他校の男の子と合コンしたからって問題にはならないよね。
私がそう思っていると不破さんがニコッと笑った。
「大丈夫だよ、ウチのクラスには幹部とかいないし。あ、笠原さんのクラスは幹部がいたよね。海堂君には内緒ね?」
小首をかしげる不破さんに関心していると麗香ちゃんの視線を感じた。
昨日、寛貴達に『明日の夜は1年生の女の子達でご飯食べてくるね』って言っちゃった。
それを知っている麗香ちゃんの顔が強張っている。
私、嘘をついちゃったことになるよね。
「スゲェ、クラスに幹部がいるんだ?」
「朱雀のナンバー3だよね。怒ると怖い?」
橘さんが聞くと、麗香ちゃんは真面目な顔をして言った。
「うん。幹部の人達は合コンの事を知ったら怒るかも…」
嘘ついたら怒るよね…どうやって説明しようかな。やっぱり正直に言うしかないよね。
あ、このパスタ美味しい。
メニューを手に取って名前を確認した。
しらすがたっぷり入っていて、葵もこういうの好きかも。
「レナちゃん」
「レ、レナちゃん呼んでるよ?」
頭の中でパスタのレシピを考えていると、麗香ちゃんが私の目の前で手を振った。
「あ、ごめんね。なに?」
男子Bが私に話しかけていたらしく、彼の方を見るとニッコリと笑われた。
「レナちゃんの好きなタイプってどんな人?」
好きなタイプ?
「私も知りたい!」
橘さんに聞かれて首を捻って考えた。
好きなタイプ…
それを考える前に、思い浮かんだのは二つの顔。
オレ様で過保護な美人と、私に激甘なフェロモン垂れ流し美人
タイプ以前にこの美人な親族に負けない人。
「…強い人?」
葵と慧君の存在を忘れていた。
合コンに行ってきた。なんて言ったら…
「確かに…」
考えるの止めよう。
「レナちゃんて強い男が好きなんだ!」
「そういう訳じゃないんだけど、大前提っていうか…アレを攻略しないと…」
「ね、レナちゃん。大丈夫?」
麗香ちゃんに聞かれてため息をついた。
考えるのを止めたつもりだったけれど、怒っている顔が幾つも浮かぶ。
パスタが美味しい!なんて呑気に考えている場合じゃなかった。
「ハイ!オレ、レナちゃん攻略したい!」
片手を挙げて宣言している彼を見て麗香ちゃんが力なくアハハと笑っていた。
私も気の抜けた笑いを浮かべ、麗香ちゃんと顔を見合わせた。
私達の考える事は同じ
『『見つかる前に帰ろう!!』』
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