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秋桜  作者: 七地
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夏空 (5) side:葵

オレがムッとしたまま愁を見ると、奴はまたニヤリと笑った。


「お菓子の材料だよ、それとテディベアの材料」


テディベア?夏休みの課題は仕上がっただろ。


「梨桜ちゃんが作ったぬいぐるみが子供達に人気だったらしい。小児科から兄貴に依頼が来て梨桜ちゃんに追加を頼んだんだ」


「へぇ…」


梨桜は昔から手先が器用だったからな…

そんな理由なら勿体つけないでさっさと教えろ、腹黒王子。


「葵、遅くなったけど昼飯は何にする?」


「…何でもいい」


愁が嫌そうな顔でオレを睨んだ。


「何でもいいから言えよ。面倒な奴だな」


「わかんねぇ、愁と同じでいい」


いつも梨桜が勝手に作るか誰かがリクエストを出すからあまり考えていなかった。


「おまえは梨桜ちゃんがいないとどうでも良くなるんだな」


「前と変わってねェよ。オレは夕飯が充実してればそれでいいんだ」


“夕飯”で思い出した。

梨桜から食料を買いに行きたいって言われたんだ。


「どうした?」


親父と慧兄が来ているから食事の用意が大変だけど、梨桜は毎日楽しそうに料理をしていた。


「一緒に買い物に行く約束してた」


迎えに行く時間を聞こうとして携帯を手にすると着信を知らせた。


「…」


一瞬、電話に出ないで無視しようかと思ったが、仕方なくボタンを押した。


「なんだよ」


『用事があるからかけてんだよ』


絶対に自分から電話をかけたいとは思わない相手に、取り繕うつもりもなくぶっきらぼうに出れば向こうも負けてはいなかった。


「梨桜がどうかしたのか?」


梨桜の存在が無かったら絶対にコイツと連絡を取ることなんてないよな…

絶対に有り得ない光景だ。


『朱雀の追っかけの女が梨桜に…『寛貴!葵に言ったら駄目!…やだっ!』


電話口で騒いでいる梨桜の声が聞こえる。

暴れて、押さえられているのかバタバタとうるさい。


『梨桜、うるさい!』

『言わなくていいって言ってるでしょ!?寛貴っ!!』


藤島の隣で梨桜が何やら抗議している。何を騒いでんだアイツ等は…


「うるせぇ…用が無いなら切るぞ?」


『用があるって言ってんだろーが!』


藤島のイラついた声と同時に扉が閉まる音がした。

コイツに言うなって騒いだって事は梨桜に都合の悪い事…今度は何をやらかした?


「何だよ」


もう一度聞くと、電話の向こうで小さく息を吐いた。言いにくい事でもあるらしい。


『朱雀の追っかけが梨桜に怪我をさせた。悪い…』


その言葉にカッとなって「ふざけんな」と答えると愁が怪訝な顔をしてオレを見ていた。


「どういうことだよ、説明しろよ」


――コンビニに買い物に行った梨桜が、言いがかりをつけてきた女達に突き飛ばされた。その時に背中を痛めて掌と肘を擦りむいた――


最近は背中を痛めても熱が出なくなってきているし、怪我自体もきっと擦り傷程度で大したことは無いだろう。

でも、言いがかりって何だよ?そんな事を言われる筋合いは無い筈だ。


「その女達どうした?落とし前つけさせたんだろうな」


『梨桜が何もするなって言ってきかない。それと…女達の一人がお前の女の連れだって言い張ってる』


藤島の言っている意味が一瞬分からなくて返事をしないでいると「ウチで手を出して揉めるのは面倒だ」と言って笑っていた。


「オレに女はいない」


『さぁな、自分の連れは宮野葵の女だって言ってる。青龍にも自由に出入り出来るらしいぞ』


それを聞いて一人の女が思い浮かんだ。

厄介だな…


「そいつの名前を教えろ」


『心当たりがあるのか?』


笑いを含んだ言い方にムッとしたけれど、対策を練る方が先だと思いイラつきを抑え込んだ。


「思い込みの激しい女に心当たりがあるだけだ」


『名前を聞いたら連絡する』


またコイツから電話が来るのかと思ったが「頼む」とだけ言って電話を切った。


「藤島の電話は何だったんだよ」


厄介な女の顔が浮かんだまま消えなくて、溜息をついて目を閉じた。

しつこくて自信過剰な女は嫌いなんだよ…


「愁、梨桜に男の格好をさせて転校させたらバレると思うか?」


「は?」


愁が目を丸くしてオレを見ていた。

…無理だよな。



.


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