夏空 (4) side:葵
「ん…ん~っ!」
苦しそうな声と柔らかな感触で目が覚めた。
状況がつかめなくて少しだけ固まっていたら、梨桜の苦しそうな声が響いた。
「うぅ…」
後ろを振り返って見れば眉を顰めたまま体を丸めて寝ている梨桜。
どうやらオレは、寝返りを打とうとして梨桜を潰すところだったらしい。
……オレ、梨桜に添い寝してたか?
まだ覚醒しきらない頭で考えたけれど、一緒にベッドに入った記憶はない。
「おい…潰されたまま寝るなよ」
また夜中に人のベッドに潜り込んできていた梨桜は起きようとしない。
タオルケットをかけてやると、安心したように手足を伸ばした。
「仕方ない奴…」
「愁、梨桜にホラー映画見せんなよ」
梨桜は昨日、愁とコジとホラー映画を見ていた。っつーか見せられていたと言った方が正しい。
一人で寝るのが怖いと言い出したのはいつもの事だったが、お風呂に入るのが怖いと言い出したのには頭を抱えた。
いくらオレだって一緒に風呂まで入れねぇだろーが?
「何で?」
「オレの睡眠時間が減る」
宥めて、一人で風呂に入らせて寝かせたのに、目が覚めたらあの状態だ…
マジで梨桜にホラー映画を見せないで欲しい。
「は?」
言ってもわかんねーか…
「梨桜はホラー映画が苦手なんだよ。必ず夜中に潜り込んで来る」
寝返りを打っていたら確実に潰してたな。前は気にしなかったけど、背中のアレがある今は駄目だ。
「潜り込む…梨桜さん可愛い…」
コジが空を見ながら呟いていた。
おまえは何を想像してんだ?バカ
「今だって大して変わらないだろ」
チームの中にあるオレ用のベッドで寝ていると梨桜が潜り込む事を言っているんだろうけど、ここと家では違う。ここはダブルベッド、家はセミダブルしかない。
「ウチのベッドはここより狭いんだよ、潰す」
愁が笑っていた。
「おまえ、そういう理由?」
他に何があんだよ…
「それと、夏は止めてくれ。暑いから冬にしろ」
愁が爆笑しだした。
前に大橋から真面目な顔で梨桜に欲情しないのか?そう聞かれて意味が分からなかった。
なんで梨桜相手に欲情しなくちゃいけないんだ?梨桜だぞ?
隣にいるのが当たり前の奴になんで『…大橋、おまえはやっぱりバカだな』そう言ってやるとアイツは『わかんねー!』と喚いていた。
わかんねーのはお前だ、バカ男
「今日、梨桜ちゃんは朱雀か?」
「あぁ」
梨桜から毎日やろうね、と言われた課題をやりながらコジがつまらなそうにしている。
愁もどことなくもの足りなさそうだ
「…なんだお前達」
「梨桜ちゃんがいないと華やかさに欠けるよな」
「そうか?」
「ハイ、淋しいです」
淋しい、ね…
「梨桜ちゃんが朱雀に行っててお前は平気なのかよ?」
愁に言われて、いつも梨桜が座っているソファを眺めた。
「なんつーか…保育所に子供を預けてる気持ち?」
「はぁ?」
愁が思いっきり眉を顰めてオレを見た。
本当は嫌だ。でも、仕方ねぇだろ?梨桜を欲しがるのはチームだけじゃない。青龍だけじゃ手が足りないんだ。
「まぁいいか。オレ、明日は梨桜ちゃんと買い物に行く約束してるから」
「愁さん、オレも行きたいです!」
オレは梨桜からそんな事は聞いてない。買い物って何だよ?
「何を買いに行くんだよ」
得意気に笑う愁を睨むとニヤリと笑ってオレを見た。
梨桜はコイツの何を見て王子様って騒いでいるんだ?
オレには理解できねぇ…
.