表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
秋桜  作者: 七地
140/258

夏空 (3)

熱い。

太陽の熱を吸収したアスファルトに肌を焼かれてしまいそう…


やっと痛みが治まり、地面に触れているところが熱いと感じるまで余裕ができて大きく息をつき顔を上げると、数人が道路を横切って走ってくるのが見えた。


「てめぇら、何をした!?」


悠君の怒声が響いた。

やっぱり大事になっちゃった。だから呼ばないでって言ったのに…


「梨桜」


地面に膝をついて座り込んでいる私の目線に合わせて寛貴が聞いた。


「大丈夫」


「それはオレが決める」


出た、オレ様…


「久しぶりだったから油断しただけだよ。もう治まったから大丈夫」


地面に手をついて身体を支えて立ち上がろうとすると体が持ち上げられた。


「え?うわっ…ちょっと、下ろして!」


寛貴に子供のように抱き上げられている格好が恥ずかしくて自由になっている両手で寛貴の肩を揺さぶった。


「歩けるから下ろして!」


「横抱きにしたら痛めている背中に負担がかかる。大人しくしてろ」


だからってこの態勢はやだっ!恥ずかしい!!

寛貴の腕の中でジタバタと暴れているとギロリと睨まれた。


「うるせぇ、これ以上イラつかせんな」


凄く低い声で言われてピタリと動きを止めた。

…怖い


「寛貴さん!」


悠君の呼びかけに寛貴は「連れて来い」そう言って私を抱えたまま歩き出してしまった。


寛貴、怒ってる?凄く怒ってる?


「寛貴?」


「なんだ」


いつもよりも数段低い声で返事が返ってくる寛貴は前だけを向いていて私の方を向いてはくれなかった。


「あの女の子達をどうするの?」


「…倉庫に連れて行く」


「なんで?」


「自分達のやった事に対して落とし前をつけさせる」


それって、寛貴が言うと洒落にならないんじゃない?

この世界の落とし前ってどんなことをするの?


「女の子だよ?」


「…」


答えない寛貴が怖い。

今までは不機嫌でも何か言葉を返してくれていたのにこの沈黙が怖いよ!


「ねぇ、寛貴ってば!」


呼んでも返事をしてくれないから、寛貴の頬に手をかけて私の方を向かせると不機嫌そうなまま私を見た。


「…なんだ」


「女の子なんだよ」


「だったら何だ?朱雀の倉庫に入りたかったんだろ、願いが叶って本望じゃねぇか」


そういう問題じゃない!次元が違う!!

また、前を向いてしまい倉庫の中に入ると奥の部屋へと進んでしまった。


「だから、女の子なんだから」


「手を出したらどうなるか、流してあるにもかかわらずオレのモノに手を出したんだ。男だろうが女だろうが関係無い」


本気で怒っている寛貴に口答えできなかった。

怖かったけど…私の事でこんなに怒っている寛貴を見て少しだけ、嬉しい。なんて思った私はきっと不謹慎なんだと思う。


ドアを足で蹴り開けて幹部室の中に入ると、ソファの上に私を下ろした。


「…血が出てる」


「え、どこ?」


自分の身体を見回すと右の掌を擦りむいていて少しだけ血が出ていた。


「大したことないよ。消毒しておけば大丈夫」


「そこだけじゃない」


どこ?ともう一度体を見回していると、寛貴に二の腕を掴まれて、捻るように腕を反転させられてやっと見つけることが出来た。


「あぁ…擦りむいちゃったね」


自分では見にくい肘を擦りむいていて、寛貴の言うとおりに血が出ていた。

背中が痛くて、肘と手のひらに痛みは感じていなかったから、言われてから『ああ、そういえばズキズキするかも』と思う位の擦り傷。


キャビネットから救急箱を取り出して掌の傷を消毒してくれた。


「痛いか?」


「ううん、痛くないよ。…あのね、いっ、痛い!痛い!!沁みるっ」


肘の手当てを始めた途端、傷口に消毒液が沁みた。

もう少し優しくしてくれてもいいでしょ!?


「逃げるな」


腕を引いて逃げようとすると、逆に強く引かれて容赦なく薬を塗られた。

痛いっ!!!


絆創膏を貼ってもらい、手当てが終わると寛貴は冷蔵庫から水とリンゴジュースを取り出して私の隣に座った。


「風呂上りも消毒しろよ」


「うん」


お風呂に入ったらまた沁みるんだろうなぁ…葵に頼むと手加減無しに薬を塗られるから自分でこっそりやろう。


「さっき何を言いかけた?」


缶ジュースのプルタブを開けてグラスに注ぎながら、言おうとしていたことを思い出した。


「うん、あのね。…慣れてるから平気、大丈夫だよ。あの女の子達にも厳しい事はしないであげて?」


そう言ったら眉を顰めて私を見た。

そんな険しい顔で見なくても…怒りが収まったのにまた火をつけちゃった?


「どういう意味だ」


リンゴジュースを一口飲んで寛貴の方を向いた。


「そのまんまだよ。女の子から嫉妬されるのは慣れてる。葵と一緒にいるとああいうのが多かったんだよね。双子だって知っていても嫉妬されるの。だから、私なら平気だよ」


「宮野はそれを知ってるのか?」


「私からは話してない」


だから多分知らない。

女の子は隠れて攻撃するのが得意なんだよ、皆が寛貴達みたいに正々堂々としていればいいのにね。


「そんな自己満足で庇われて宮野が納得すると思うのか?…オレなら嫌だ」


寛貴からそんな事を言われるとは思っていなかったから驚いた。


「嫉妬されようがされまいが関係ない。でも、大切な存在が傷つけられたら嫌じゃないのか?梨桜、おまえが逆の立場だったらどうする」


嫌だよ。

私の所為で葵が嫌な思いをするのは許せない。


「慣れてるから平気なんて言うな。怪我までさせられて平気な訳ないだろ」


「うん。今まで深く考えてなかった」


切なそうな眼で私を見るから、つい、手が動いてしまった。

寛貴の頬に手を添えると、驚いたように目を見開いた。


「寛貴、ありがと」


少しだけ放心していたように見えたけど、私を見つめたまま、フッと笑った。


あ…優しい顔だ。この表情、好きかも。

優しく笑っている顔を見ていたら、体がグラリと揺れて視界が反転した。


「…」


押し倒された。そう気づく前に唇が重ねられていた。

いつもなら抵抗するはずなのに、私は目を閉じた。

だって、あんなに切なそうな眼をするから。

優しい顔で笑うから…


唇が離れて目を開けると、私を見つめている寛貴がいて…また唇が降りてきて、どちらともなく目を閉じた。


「寛貴さん!」


突然、“バタバタ!”と廊下を走る音が聞こえて、もう一度「寛貴さん!」と大きな声が聞こえた。


こちらに向かっているだろう足音を聞きながら目を開けると、目の前ではぎゅっと目を閉じたまま眉間に皺を寄せている『総長様』が居た。


「…ちっ」


至近距離で大きな舌打ちをされて、つい「ふふっ」と笑ったら睨まれた。


「寛貴さん!」


“バン!”と勢い良く扉が開かれた。


「寛貴さん!あの女た…」


勢いよく部屋の中に入ってきたものの、ソファの上で寛貴に背中を支えてもらいながら体を起こしている私を見て固まってしまった彼。


「またお前か?章吾」


飛澤君…頑張れ。



.


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ