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秋桜  作者: 七地
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夏空 (1)

一日おきに朱雀と青龍に行くという決まりは夏休みも有効らしく、せっかくの休みなのに学校で見かけるのと殆ど変わらない顔をあちこちで見かける。


ただ違うのは、注目されているのがいつもの1年生ではなく上級生だという事。

寛貴と拓弥君と一緒に倉庫の1階にある大きなソファに座っていると2年生と思われる生徒がチラチラと私を見ていた。


「センパイ、見られるよりも直接言われた方が良いんですけど?」


同じ年の上級生に向かってニッコリ笑うと目の前にいるグループは私を見て固まっていた。


私、怖くないよ?大丈夫。私と話をしただけじゃ寛貴も葵も怒らないから


「…あのさ、あのメガネってわざと?」


私の隣で偉そうに寛いでいる男を指した


「葵と寛貴達に言われてたから」


彼等は私が指す方を見たけれど、寛貴と拓弥君に見返されてすぐに視線を私に戻した。


「い、今の顔が素顔だよな?」


変な質問に笑ってしまった。


「これが素顔、ですよ?」


何にもいじってないよ、ほぼスッピンです。

頬をさすりながら言うと、別な人が私を見ながら口を開いた。


「5代目の彼女ってマジ?」


「オレは宮野の彼女って聞いた」


「初代の彼女だろ?あんたが北陵に拉致られて初代が駆けつけたって…」


次々と飛び交う諸説に驚いた。

凄い!どうやったら違う情報ばかりが飛び交うんだろう?


「あのね、慧君は私と葵の叔父さん。涼先生は私の主治医」


「叔父さん!?」


その答えに驚いている。そんなに驚くことだろうか?

その驚きッぷりに笑ってしまいそうになった。


「マジ!?」


目が真ん丸になっていて面白い。


「うん。葵と慧君って似てるでしょ?私も少しだけ慧君に似てると思うけど」


私の顔を見ている彼等がおかしくて笑っていると、一人が納得したようにうんうん、と頷いていた。


「だから青龍の姫だったんだ」


その“姫”っていうの止めようよ。あんまり好きじゃない。


「私は姫なんかじゃないよ」


「あー、オレやっと納得した。なんで転校してきた東堂さんが青龍の姫なのか分からなかった」


「オレも納得。両方の姫っつーことだ」


「いや、あのね…姫じゃないって言ってるでしょ?」


私の言葉なんか耳に入らないようで彼等だけで納得している。


「ねぇ、聞いてる?」


「望もうが望むまいが姫決定。スゲーな、前代未聞だぜ?」


だから、違うって言ってるのに、私の話は聞いてくれない。これ以上説明しても無駄だと思い、お茶を淹れるために立ち上がった。


「どこに行く?」


「お茶淹れてくる」


今まで傍観していた寛貴に言うと、二年生はおもむろに立ち上がって寛貴を見た。


「寛貴さんはコーヒーですか?」


「ああ」


「姫は?」


だから、姫じゃないって言ってるのに…


「…自分でやるから」


「姫は座っていて下さい」


「自分のお茶くらい自分で淹れます。それから、今度姫って呼んだらここには来ないから」


寛貴に向けて言うと、クッと笑いながら周囲を見た。


「おまえ達、分かったか?」


「…」


無言で頷く彼等を見ている寛貴。拓弥君は楽しそうに笑っていた。分かってるなら最初から言っておいてくれればいいのに





簡易型のキッチン、前にも思ったけれど汚くはないけど雑然としている。

男の子だけだとこうなっちゃうのかな…


ここに来ても特にやることもなくて暇だから整理をすることにした。






「戻ってこないと思ったら…何をしてるんだ?」


「整理整頓」


ごそごそと片付けていると頭の上で声がした。

振り返って答えると寛貴は壁に背を預けて私を見下ろしていた。


「ねぇ、私の事を姫って呼んだらホントにここに来ないからね」


「女はお姫様扱いされたら嬉しいんじゃないのか?」


偶に愁君や桜庭さんが冗談で私の事を“姫”って呼ぶけれど、不特定多数に呼ばれても嬉しいとは思わない。それに私は姫なんていうガラじゃないよ。


「さぁ、どうだろう?できた、終わり!寛貴はコーヒーだったよね、今淹れるね」


私はカフェオレにしようかな。

コーヒーメーカーもあったけれど、抽出する時にコーヒー豆が膨らむ様子を見るのが好きだからペーパードリップにした。


「いい香りだね」


少しずつ、少しずつ…お湯を回し入れているとふわりと腕が回された。

心臓がドキっとなり、顔が熱くなったけれど気付かれないように前を向いたままお湯を入れた


「危ないよ、火傷しちゃう」


そう言って誤魔化そうとしたけれど、火傷しそうなのは私の背中…寛貴の胸が当たっていてそこだけが異様に熱い。


「ここに来ないなんて、許さないからな」


耳元で囁かれて、私の手からポットを取り上げた。触れるところ総てが熱くてのぼせてしまいそう…


「梨桜?」


もう一度耳元で囁かれてビクッと肩が震えてしまった。


「へぇ、耳が弱いんだ?」


そう言うなり、私の耳をカプリと噛んだ

カクンと膝から力が抜けてしまい、床に座り込みそうになると回されていた腕に支えられた。


「寛貴!!」


寛貴は片手で私を支えたままコーヒーをドリップしていて、キッと睨むと余裕の笑みを浮かべて私を見ていた。


「ねぇ」


いつもこうなる。

ムッとしたまま見れば笑いながら見下ろされている私。


「なんだ?」


この前、円香ちゃんが私に言った言葉『どうして嫌じゃないか。梨桜がその理由に気付いたら一番最初に教えてね』


「この格好ってなんだか悔しい」


「腰抜かした奴が言うな」


「立てるもん!」


そう言うと、私を支えていた手を離してコーヒーカップを棚から取り出した。急に支えがなくなった私はバランスを崩してしまい、慌てて壁とシンクに手をついて身体を支えた。


「バカだな…何を飲むんだ?」


く、悔しい!!


「…カフェオレ」


答えると見下ろしたままフッと笑われた。


「砂糖は?」


「いらない」


なんで寛貴ばっかり余裕なのよ、ホントに納得がいかない!

円香ちゃん、訂正するね。“嫌じゃない”から“悔しくて、腹立たしい”に変更。



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