ライバル (2) side:円香
梨桜の“特別”の中で別格な男。彼には50センチの壁なんて最初から関係ない。何故って、生まれる前から一緒にいたから。
「行くぞ」
そう言うと梨桜は彼の腕に自分の手をかけて歩きだした。
隣を歩くこの男には素をさらけ出している。当然といえば仕方ないけど、少しだけ悔しい。
「似たようなの持ってるだろ?」
綺麗にディスプレイされていた雑貨屋の前で立ち止まりかけた梨桜に声をかけていた。
特に口にしなくても梨桜が何に惹かれて立ち止まったかが分かるこの男は凄く綺麗な顔をしている。
「でも、これもいいと思わない?」
「今日は時間がないからまたな」
諭すように言われて梨桜は前を向いて歩きだした。
『大学の下見が終わったら一緒にご飯食べない?』と誘われて敬彦と私、梨桜と葵君で待ち合わせをした。
待ち合わせ場所に歩いてくるこの双子は物凄く目立っていた。
「ねえ、端から見てるとカップルみたい」
「いつもこうなのか?」
私の隣で敬彦も聞いていた。
去年、初めて彼と会った時に梨桜は意識が無い状態だったから双子の絡みを見るのは初めてで吃驚している。
「うん」
運ばれてきた紅茶を受け取ると梨桜の前に置いてカップに注いでいる。
さっきから見ていて思うのは『過保護』梨桜は一人で出来る子なんですけど…
「甘やかしすぎじゃない?」
こんなに甘くて不良チームのトップが務まるんだろうかと疑問を感じてしまう。昨日の藤島君も梨桜に甘いと思ったけれど、これはこれで甘い。
「円香ちゃんもそう思うでしょ?」
「うん、過保護」
私が頷くと梨桜が葵君を見て頬を膨らませた。自分が過保護にされている自覚があることに少しだけ安心した。
「ほら!やっぱり葵は過保護なんだよ」
葵君はスプーンにプリンを掬い梨桜の口の前に差し出すと、梨桜はパクリと食べた。
「…」
敬彦が固まっている。
そりゃそうだ、こんな梨桜は見たことが無い。
もう一口差し出されて素直に食べている梨桜。
流石!と言うべきなんだろうか、扱い方を心得ている。私でもこんなに上手く梨桜を黙らせることは出来ないと思う。
「美味しい!」
もう、忘れてる…単純なんだから
「良かったな」
葵君は梨桜にスプーンを持たせると平然とコーヒーを飲んでいる。梨桜はといえば、綺麗に盛り付けられた苺をフォークに刺すと葵君に向けた。
「ハイ」
葵君が差し出された苺を食べた。
「どうしたの?二人とも」
敬彦と二人で目の前にいる双子を凝視していたら梨桜が不思議そうな顔で聞いて来た。
どうしたも何も…あんた達、本当に血の繋がった双子?実は…親が再婚した連れ子同士です。なんていうオチがあるんじゃないでしょうね!?
「なんでもない」
なんかこの双子って、見ていて恥ずかしいんですけど…
私達は付き合って3年目になるけど、こんなことしたことない。思わず自分達に置き換えて想像してしまい物凄く恥ずかしくなった。敬彦も顔を赤くしている。
「…元気そうで安心したわ」
気を取り直して言うと梨桜は笑った。この笑顔が変わってなくて良かった。
「女子校から元男子校に転校するなんてすげぇよな」
敬彦が言うと梨桜は苦笑いを浮かべ、葵君はコーヒーを飲んだ。
「受け入れてくれるところが紫苑だけだったの。男の子が多過ぎて女子校が懐かしくなるよ」
元男子校に梨桜みたいな子が来たら大騒ぎなんだろうな…
「女子校に転校してもいいぞ」
葵君が言うと梨桜は「また転校するのは面倒だよ」と笑っていた。梨桜、彼が言っているのはそういう事じゃないと思うよ?
相変わらずな梨桜を眺めていると葵君の携帯が鳴った。
「愁君?」
「ああ、メール…ちょっと外す。終わったら迎えに来るから」
葵君が席を立ってしまい、梨桜は「じゃあね」と手を振っていた。
「東堂の弟ってスゲェな」
敬彦が感心しているけど、あんたは何に感心しているの?
梨桜はしきりに感心している敬彦を見て可笑しそうに笑っていた。
「梨桜、元気そうで安心したよ」
私が言うと、ふわふわと笑っている。その笑顔には無理をしているところは無くて安心した。
「あ、オレちょっと買い物」
敬彦が席を立ってしまい、梨桜と二人で残された。
「タカちゃんに気を使わせちゃったね、後で御礼言っておいてね」
「うん」
梨桜は紅茶を口に運んで笑っていた。
「ねぇ梨桜。やっと二人になれたね」
少し意味深に言い梨桜に微笑みかけると、露骨にビク!と肩を震わせた。
「円香ちゃん?」
おずおずと、上目遣いに私を見上げる梨桜を見ていてちょっと意地悪な気持ちが湧きあがってきた。
「いろいろ聞かせてもらいたいことがあるのよね」
さぁ、覚悟してもらいましょうか?
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