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秋桜  作者: 七地
131/258

空木 (12) side:コジ

ああ、まただ。

前に梨桜さんがチームハウスに居た時に窓ガラスが割れたことがあって、あの時もこんな風に取り乱して葵さんが宥めていた。


「…ごめんなさい」


梨桜さんが小さな声で呟くと、葵さんの目が悲しそうに伏せられた。

何に対する謝罪なのか?オレには分からないけれど、梨桜さんは泣いていて葵さんは悲しそうに梨桜さんを見ていた。


いつも優しく笑っている梨桜さんの泣き顔を見るのは切ない。


「悪い、外す」


梨桜さんを抱き上げた葵さんはそう言うと別室に入ってしまい、愁さんは扉が閉まるのを確認すると携帯で桜庭と連絡を取り始めた。


「梨桜ちゃんはどうしたんだよ」


大橋に聞かれて、話していいものかと考えて愁さんを見ると、藤島が梨桜さんがいる部屋の扉を見ながら言った。


「急ブレーキか?」


愁さんは携帯のフリップを閉じながら頷いていた。


「今は大分落ち着いて来たけど、ガラスの割れる音や急ブレーキの音を聞くと事故の事を思い出すらしい」


「PTSD 」


藤島が呟くと愁さんが頷いていた。

葵さんが事故を連想させてしまう事から遠ざけようと思っていても避けられない事もある。

今日みたいな出来事は梨桜さんにとって辛い記憶を呼び起こしてしまう。


「梨桜さんが苦しんでいるのを見るのは切ないです」


梨桜さんにはいつも笑っていて欲しい。泣き顔は似合わない。


「コジ、ありがとな。でも、お前が気に病むことはないぞ」


声をかけられて振り向くと葵さんが立っていた。


「梨桜を連れて帰る。愁」


「桜庭を呼んだから、もうすぐ着く」


その言葉に頷いて、梨桜さんの荷物をまとめ始めた。


「梨桜さんは大丈夫ですか?」


「あぁ、少し取り乱しただけだ」


あれが少し?オレにはそう見えなかった。

きっと葵さんはオレ達に心配をかけないようにそう言っているんだろう、その証拠に葵さん本人が悲しそうな顔をしている。


「梨桜は、何がダメなんだ?」


藤島の言葉に葵さんが顔を上げた。

梨桜さんが紫苑の生徒で朱雀の倉庫に出入りするなら、知っておいてもらった方がいいと思う。

葵さんもそう思ったのか藤島に向き合って話し出した。


「…急ブレーキの音やガラスが割れる音。事故を連想させるものは苦手だな、車に乗っている時に事故現場にあったら見せないで欲しい」


「分かった」


藤島が頷くと、海堂は切なそうな顔で扉を見つめていた。

あいつ、まだ梨桜さんの事が好きなんだろうな…


葵さんがまた別室に入って行くと、愁さんが腕を組んでポツリと言った。


「秋になると一年経つんだな…」


一年前、梨桜さんが事故に遭ったという連絡が入った時の葵さんは見ているオレも辛くなった。

見かねた愁さんが葵さんに付き添って札幌に行ったけれど、睡眠も食事も殆どとらなかったらしい。


「梨桜ちゃん、またね」


隣の部屋から出てきた彼女に愁さんが声をかけると、泣きはらした目をしたまま笑っていた。


「うん、また明日ね」


葵さんに支えられながら生徒会室を出ていった。

やっぱり梨桜さんには笑顔が似合うと思う。



.


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