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秋桜  作者: 七地
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空木 (8) side:コジ

愁さんの後に続いて部屋を出て総長室に入ろうとすると入口に人が溜まっていた。


「涼、このままセットで京都に持ち帰ってもいいか?」


無理矢理中に入ると、部屋の真ん中で皆が固まっていて、その中央で初代が真面目な顔をして五代目に聞いた。


「ホントに叔父バカだな…」


五代目は呆れているけど、初代の気持ちは良く分かる。

オレはソファに目をやり、頬が緩むのを止められなかった。


あぁ、今日は葵さんの膝枕なんだ。

ソファに腰かけて腕を組みながら寝ている葵さんの膝を枕にしてスヤスヤと寝ている梨桜さん。

役割が逆のような気もするけれど、何故か梨桜さんは葵さんの膝枕で寝ている事が多い。


気配に気づいたのか葵さんが目を覚まし、オレ達を見ると眉を顰めた。


「何でこんなにいるんだよ」


愁さんとオレに向けての文句なんだろうけど、寝起きの葵さんにはいつもの鋭さが足らなくてあまり怖くない。


「ん」


梨桜さんが顔を横向きにして、寝返りを打とうとして眉を顰めた。


「い…た…」


胸が傷んだのかそう呟いてぎゅっと目を閉じてから目を開いた。


「梨桜、おはよう」


いつの間にか枕元に移動していた初代が梨桜さんの顔を覗き込みながら頭を撫でていた。

五代目が愁さんに「初代としての威厳が保てなくなるから幹部以外には絶対にこの姿を見せるなよ」と言い聞かせていて、愁さんは苦笑しながら頷いていた。


「慧君…おはよ」


起き上がろうとする梨桜さんを葵さんが後ろから支えて、梨桜さんの背中にクッションを宛がい、背中が痛まないように座らせていた。


「葵と一緒に昼寝か?」


まだ眠そうな梨桜さんは、葵さんの二の腕に額をつけて目を閉じたままコクコクと頷いていた。

葵さんが時計を見ながら「そろそろ起きろよ」と言うと、眼を閉じたまま「ヤダ」と即答している。


いつもなら梨桜さんの好きにさせている葵さんだったけれど今日だけは違かった。

「梨桜、桜庭と約束してたんじゃないのか?」そう言うと梨桜さんの頬に水の入ったペットボトルをペタリと触れさせた。


首を傾げた梨桜さんは「あ!」と言い、ペットボトルを受け取りながら立ち上がった。


「着替えてくる!」


嬉しそうに言うと梨桜さんはシャワールームに入って行った。

今日の集まりで話されることを梨桜さんの耳に入れたくない葵さんは、さり気なく梨桜さんを自分から遠ざけた。


前に傘下にいるチームの奴に葵さんと双子だと知らずに絡まれた事があって、その時に梨桜さん怖がらせてしまった。

だから葵さんは集まりがある時は梨桜さんをココに連れて来ないけれど、今日は特別だから仕方がない。


「桜庭って運転手だろ?梨桜は何を約束したんだ」


初代が聞くと愁さんが笑いながら「ペンキ塗り」と答えていた。


「はぁ?ペンキ塗り?」


そう、ペンキ塗り。

この前、梨桜さんが作った花壇に柵を作ってペンキを塗っていたら『私もやってみたい!』と目をキラキラさせて葵さんに訴えていた。


ペンキ塗りをしたがる女子高生。


そんなのは梨桜さんくらいじゃないだろうか?怪我をして延期されていたけど今日に合わせるように葵さんが許可を出した。


「行って来るね」


Tシャツとカーゴパンツに着替えた梨桜さんはオレ達に手を振った。


「梨桜ちゃん、帽子被って行けよ。それから無理な態勢を取り続けない事」


主治医らしい発言をしている五代目をフォローするように愁さんが帽子を持ってきて梨桜さんに手渡していた。


「約束できる?」


梨桜さんは帽子を被りながら頷き、部屋を出て行った。


「ペンキ塗りのどこにあんなに浮かれる要素があるんだよ」


「わかんねぇ…ペンキ塗りなんてメンドイだけだろ」


海堂と大橋が首を捻っていたけれど、藤島は可笑しそうに笑っていた。

野郎とするペンキ塗りはつまんねーけど、梨桜さんとするペンキ塗りなら楽しそうだ。


初代がテーブルの上に乗せられている作りかけのテディベアを持ち上げて眺めていた。


「相変わらず変なものに興味を持つな。女の子らしくこれの続きをすればいいだろ」


梨桜さんが部屋から出て行くと、葵さんは総長の顔に戻り冷たい笑みを浮かべていた。


「慧兄、さっさと終わらせようぜ」


葵さんの言葉に藤島が反応して睨み合いが始まってしまった。

梨桜さん、この二人を止められるのは貴方だけかもしれません…




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