眠り姫と攻略法 (9)
病み上がりだから?
私には刺激が強すぎたらしく、頭と体力を使い果たしてしまい、キスをされたままくたりと寛貴の腕の中で崩れてしまった。
「梨桜?」
自分の腕の中にいる私の顔を覗き込まれ、視線だけで対抗した。
「もっと体力つけろよ」
その台詞、寛貴にだけは言われたくない。
むうっと寛貴を睨むと笑われた。
「体力が無いのを分かってるなら、ああいうことしないでよ。寛貴のバカ」
ソファに寝かされて眼を閉じると、軽く眩暈がした。
今更後悔しても遅いけど、葵の言う通り、もう少し回復してから学校に来れば良かった。
「午後の授業を受けるの無理みたい。保健室で休んでる」
「移動だけで大騒ぎされるぞ」
その言葉だけで、疲労感が増したような気がする。
どうしてあんなに大騒ぎされなきゃいけないの?
「東堂、ここにいるって聞いたぞ?」
扉が開き、担任の先生が部屋に入ってきた。
「具合が悪いのか?」
「久しぶりに授業を受けたから疲れたんだろ」
私の代わりに寛貴が答えてしまい、先生は頷いていた。
誰のせいで疲れが倍増したと思ってるのよ?
「そうか、起きなくていいぞ。横になってろ」
先生の言葉に甘えて横になったままでいると、先生は「騒ぐのも無理ないな」と一人で納得していた。
「でも、これなら効果はありそうだな」
ボソボソと独り言を言っている先生に私は首を傾げた。
寛貴も何のことか分からないのか、腑に落ちない顔で先生を見ていた。
効果?
「先生?」
私が聞くと、先生はニッコリと笑って私と寛貴を交互に見た。
その笑顔、何かを企んでいるでしょう?
先生、怪しいよ。
「東堂、実はな頼みがあるんだ」
やっぱり怪しい。
体を起こして、構えながら先生を見たけれど、変わらずにニコニコ笑っていた。
どうしてそんなに機嫌がいいの?
「何ですか?」
「夏休みにオープンキャンパスがある。生徒会役員として中学生に学校紹介と挨拶をしてくれないか?」
え、私が?
自分を指差して先生に聞くと、「そうだ」と頷いていた。
「難しくない。藤島の隣でにっこり笑って学校が楽しいってアピールしてくれ」
「無理」
私の隣に座っていた寛貴は即答していた。
先生、申し訳ないけど私も無理かも…
「おまえな、即答するなよ。仮にも生徒会長だろ!学校の為に協力しようとか思わないのか!?女子生徒が増えた方がいいだろ?」
少しだけ不純な動機が混じっているように思えたけれど、共学と言いつつ女子生徒が10名しかいない今の状況は寂しすぎる。
「別に、うるさい女が増えるのは面倒だ」
女子生徒が増えれば学校の雰囲気が明るくなると思う。
そう思ったのに、寛貴は本当に面倒らしく素っ気なく切り捨てた。
寛貴の外見なら騒がれるのも分かるけど、そんなに毛嫌いしなくてもいいのに…
「そんなに女の子が嫌い?」
「うるさい女は嫌いだ」
どこかで聞いたことのある理由だね。
纏わりつかれ過ぎて、嫌いになっちゃったんだね。
「藤島、オレは今回の件で大変だったんだぞ!?」
なるほど、と一人で納得していると先生の悲痛な声で訴えていた。
どうして先生が大変だったの?
「女子生徒が二人も拉致されて、生徒会が他校に殴り込みに行ったなんて…前代未聞だぞ!共学になった途端にこんな騒動が起きて、PTAが大騒ぎだったんだぞ」
「先生、ごめんなさい」
学校の事は全く考えていなかったから先生にも迷惑をかけちゃった。
「“共学”を廃止しろって騒いだPTAを宥めた先生のお願いを聞いてくれ」
切々と訴える先生を見ていたら申し訳なくなってきてしまった。
あのときに誰かに相談していたら結果は変わっていたのかもしれない。
「分かりました」
私が言うと、先生はにっこりと笑った。
その変わり身の早さに驚いていると寛貴が私を見て溜め息をついた。
「梨桜、なんで受けたんだよ…そもそも、代々の生徒会が朱雀の幹部なんだ。放任してきた学校とPTAにも問題があるだろ、今更ガタガタ騒ぐんじゃねぇよ」
そんな事言われても、先生が可哀想になっちゃったから…
迷惑もかけたし、生徒会役員としての責任感もあるかなって
「だって先生にも迷惑かけちゃったし、それに、生徒会の仕事なんでしょう?私一人でも頑張るよ」
だから寛貴は出なくてもいいよって言おうとしたら、先生は腕を組み寛貴を見ながらニッと笑い口を開いた。
「東堂、一人じゃないから大丈夫だぞ?大橋にも頼むつもりだ。あいつは目立つのが好きだから引き受けるだろ。大橋の隣に立ってくれればいいぞ」
先生がニコニコしていると、寛貴は不服そうな顔をして「オレも出ればいいんだろ」と言うと、先生は二ヤッと笑った。
先生ってもしかしたら、確信犯?私ってば言いくるめられた?
渋い顔をする寛貴と、笑っている先生を見比べていると私の携帯が鳴った。
授業中に誰だろう?と思い電話に出ると
『梨桜っ!あのメールは何なの!?あの男は誰!?』
耳に当てた受話器を遠ざけてしまうくらい大きな声で私の親友は問い質してきた。
『ちょっと!何で黙ってるの!?梨桜、答えなさいよ!!』
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