眠り姫と攻略法 (8)
悠君と麗香ちゃんのおしゃべりに相槌をうっていたら眠くなってきた。
人の話す声が耳に心地良くて、ウトウトと眠ってしまいそう。
「梨桜、来い」
寛貴に呼ばれて隣の部屋に入ると、「座れ」と言われて寛貴の手を借りながらソファに腰かけた。
「疲れたか?」
「うん、久し振りだからね。ちょっと眠くなってきた」
「熱は?」
「大丈夫…聞きたい事があるんだけど」
私の額に手を当てている寛貴を見た。
お昼寝をする前に聞いておきたかったことがある。
「なんだ」
「タカちゃんから送られた段ボールに手紙の束が入っていたでしょう?」
「…」
何故か無表情で私を見る寛貴に、少し不安になった。
あの時、タカちゃんのメモを読んだと思ったのは気のせい?
「段ボールごと無くなってるんだけど、葵が何かしてなかった?」
葵に聞いても素っ気なく“箱を捨てた”としか言わないからそれ以上聞けないでいた。
「…手紙を見つけたらどうするんだ?」
どうって…どうするか考えようと思っていたら無くなっていたから、まだ決めてない。
断る手紙を出した方がいいのかな…
「連絡先が書かれてたら「捨てた」」
「え?」
「オレが捨てちまえって言って、宮野が捨てた」
素っ気なく、言う寛貴の顔をマジマジと見てしまった。
捨てた。って…私宛の手紙だよ?
「一々返事を書くつもりか?」
「だって…」
不機嫌な声で聞かれて思わず口ごもると、寛貴は小さく笑って私に向かって手を出した。
「だったら、頭を悩ませる手間が無くなって良かっただろ」
そういう問題じゃないと思うんだけど、寛貴と葵の考えていることについていけないよ…
「そんなものが来ないようにしてやる。携帯貸せ」
「そんなこと出来るの?」
寛貴は頷くと、口角だけを上げて笑った。そんなことが出来るならもっと早く知りたかった!
寛貴に携帯を渡すと「矢野敬彦だったよな」と言いながら何か操作をして私に携帯を返した。
「どうすれば来なくなるの?」
「簡単だろ」
自分の携帯を取り出して、操作していた。
簡単なら、ますます知りたい。
「何してるの?」
「梨桜、こっち向け」
呼ばれて寛貴を見ると機嫌が良さそうに笑っていた。
「すぐに終わるから目を閉じて“5つ”数えろ。いいな?」
「うん」
良く分からないけど、手紙を受け取らなくて済むのは助かる。目を閉じて数を数えた。
いち、にぃ、…
「単純で楽だな」
何が?と聞こうとしたら、唇に柔らかいものが触れてシャッター音がした。
「!?」
寛貴にキスされてる!?
「何してるの!?」
「分からないのか?」
キスされたのは分かってるよ!
何で?っていう意味なんだけど!?言葉を変えて、もう一度聞いた。
「どうして?」
どうしてキスするの?
「…忘れたのか?」
真剣な顔をして私の顔を見ていた。
何かあった?首を捻って思い出そうとしたけれど…えへ、と笑って誤魔化そうとしたら凄くイヤな顔をされた。
「オレは自分のものに手ぇ出されんの嫌いだって言っただろーが、忘れんな」
真顔で言われて吃驚した。
え、あれってこういう意味だったの?
「…その顔はきれいさっぱり忘れてたって顔だな?」
忘れてはいないけど、ううん、ほとんど忘れてたけど、意味がある言葉だとは思わなかった。
何て答えよう?
取り敢えず、『私はモノじゃないよ』って言ってもいい?
あのね、と話し始めようとしたら目の前に顔があった。
キスされる。そう思った瞬間に唇が重なって抱き寄せられた。
寛貴に抱き締められるとドキドキするんだよね…今までに感じることがなかった感情、これは何?
「嫌か?」
問われて、考えてしまう。
私の髪に寛貴が頬を寄せていて、不思議とそれが嫌じゃない。どうして嫌じゃないのか、自分でも分からない。
「嫌じゃないけど、分からない」
これが率直な気持ち。
分からないけど、嫌じゃないの。当たり前だけど、葵とは違う。前とも違う…
「別に急いで答えが欲しい訳じゃない」
もう一度、唇にキスをすると私を自分の胸の中に抱き込んだ。