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秋桜  作者: 七地
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眠り姫と攻略法 (5)

学校に来るのが凄く久し振りに感じる。

裏門に車を停めて貰って校舎を見て小さく息を吐いた。


ここは朱雀のメンバーが通う学校だということを改めて頭に叩き込んだ。葵と双子だという事実がどこまで広がっているんだろうか…寛貴に迷惑にならないようにしなくちゃ


「行ってきます」


私が車から降りると、葵も降りて来た。

今までなら絶対に車からは降りなかったけれど今は私の前に立って荷物を私に渡してくれている。


「無理はするなよ、具合が悪くなったらすぐに連絡しろ」


「うん、またね」


葵と送ってくれた慧君に手を振った。



「梨桜ちゃん!」


昇降口のところで麗香ちゃんが待っていた。

手を振ると、駆け寄ってきて私の荷物を持ってくれた。


「麗香ちゃん、ありがとう」


「これくらいさせて?」


お見舞いに来てくれた病室で、泣きながら何度も謝る彼女に私が黙っていた秘密を打ち明けた。

麗香ちゃんは凄く驚いていたけれど、葵からも説明させると納得してくれた。


上履きに履き替えて教室に向かって歩いていると、悠君に「梨桜ちゃん!」と呼び止められた。


「おはよう」


「おはよ!オレ、正門で待ってたんだぞ」


前と変わらずに接してくれる悠君に笑顔で答えながら、


「ごめんね、慧君が目立つから裏門に車を停めてもらったの」


「まぁ、正門に停まったら大騒ぎになるかもね」


麗香ちゃんの手から私の荷物を受け取ると、3人で歩いた。


「梨桜ちゃん、その髪形も可愛いね」


ショートボブにしたのは初めてで、似合っているか心配だったけどそう言ってくれて嬉しかった。

慧君も“可愛い”って言ってくれたけど、慧君の“可愛い”は何をしても言うから本当かどうかが分からない。


「そう言ってくれるのは麗香ちゃんだけだよ!」


「麗香ちゃん大好き!」


「梨桜ちゃんは可愛いよ」


麗香ちゃんの腕に自分の腕を絡めた。


3人でおしゃべりをしながら歩いて教室まで来ると、悠君が私を見てニヤリと笑った。


「楽しみだな、笠原」


「ふふっ」


何が楽しみなのか…二人は顔を見合わせて笑っていた。


「何が?」


「梨桜ちゃんは分からなくていいんだよ」


言葉の意味が分からなくて首を捻ると、悠君が勢いよく扉を開けた。


皆が悠君を見ると、ざわついていた教室が一気に静かになった。


「…」


皆が私達を見ているような気がする…ちょっとだけ、怖い。

悠君を見ると、楽しそうな顔をしながら「見てんじゃねーよ」と言うと、私達を見ていたクラスメイトは一斉に視線を逸らした。


「梨桜ちゃん、入らないの?」


悠君に促されたけれど、居心地が悪い。

どうしてこんなに注目されなくちゃいけないの?


「もしかして…」


総長モードで怒ってる寛貴が後ろにいる?だから、皆が驚いてこっちを見ていた?

そう思って振り返ったけれど誰も居なかった。


「葵に送ってもらったのを見られた?」


呟くと、麗香ちゃんが両手を顔に当てて頬を染めた。


「宮野君に送ってもらったの!?宮野君がここまで来たの?」


「そんなに感激するほどの事もないと思うんだけど…」


私が言うと、麗香ちゃんは「梨桜ちゃんは、まだ分かってない!」と怒られた。


前に、葵と寛貴がどれだけ女の子から人気があるかを説明されたけど、お見舞いに来てくれた時も同じことを、懇々と説明された。

特に葵は男子校で、桜庭さんに送り迎えをしてもらうことが多いから、滅多に会えない存在らしい。


「麗香ちゃんに挨拶させれば良かったね。ごめんね」


麗香ちゃんは目を大きく見開くと、首を横に振った。


「とんでもないよ!宮野君に挨拶してもらうなんて!私から挨拶しなきゃいけないんだから!…でも、ここまで来てたんだぁ、見たかったな」


そんな、大袈裟な…葵なのに


「いいなぁ、梨桜ちゃんは…宮野君とも藤島先輩とも親しくできて」


麗香ちゃんに「意外に大変なんだよ」と教えてあげたいけれど、言ったところでまた懇々と説明されそうだったから笑って誤魔化した。


『これから放課後は一日おきに青龍と朱雀のチームに行くことになったからな』

この言葉が実行されたら、と思うと頭痛がしそうだった。

麗香ちゃんは『いいな』って言うけど、本当に大変なんだよ?放課後に女子高生らしい事ができなくなっちゃったんだから!



久しぶりの授業は楽しかったけれど、自分で考えていた以上に体力を使ったらしく、お昼休みになる頃には疲れてしまった。


「梨桜ちゃんはお弁当?」


「うん」


「寛貴さんが生徒会室に来るように言ってるから行くぞ。笠原も来ていいって言ってた」


悠君の言葉に素直に頷いた。

お弁当を食べたら生徒会室のソファで休みたい。


「私もいいの?」


「悠君、麗香ちゃん、早く…」


二人に「早く行こう」と促そうとしたけど、視線を移した先の異様な光景に言葉が出てこなかった。


「なに、あれ…」


廊下に面した窓と教室の前と後ろの扉が開けられていて、そこには沢山の生徒がいて教室の中を覗いていた。

私が廊下を見ていると、ザワザワと「こっち見た」とか「マジであれが?」とか話をしている声が聞こえてきた。


「やだ、気持ち悪い…」


思わず声に出してしまうと、悠君が「予想以上」と言いなが引き攣った笑顔を浮かべていた。


「さすがにこれは怖いね。梨桜ちゃん、大丈夫?」


大丈夫じゃない。

ただ学校に来ているだけなのにこんな怖い思いをするのは嫌。

どうやって教室から出ようかと考えていると携帯が鳴った。


「ハイ」


『遅い。何かあったのか?』


この学校では誰も逆らえない男からの電話にホッとした。



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