眠り姫と攻略法 (4)
ママ、ごめんなさい
---葵、ごめんなさい。
「ごめんなさい」
「梨桜、どうした?オレは怒ってないぞ」
慧君の言葉に首を横に振ると、さっきまでの不機嫌さが嘘のように心配そうな顔をして私を見ていた。
心配かけちゃう…泣くのは後にしよう
「大丈夫だよ、ちょっと去年の事を思い出しただけ」
慧君に心配しないでね、と笑いかけると少しだけ困ったように笑みを返してくれた。
「食べろ」
葵が私の隣に座り、テーブルの上にお皿を置いた。
目の前に置かれたのは、野菜スープとミルク粥
「これなら食べられるだろ?」
頷いて野菜スープが入ったカップを手にして一口飲んだ。
普通のお粥はあんまり好きじゃないけど、葵が作ってくれるコレは好き。
「美味しい」
「食べられるだけでいいから食べろ」
少しずつ、ゆっくりと食べていると、皆の手を渡り歩いていた写真が葵の手に渡されて、葵は一枚一枚ゆっくりと眺めていた。
「これってアイツの彼女?」
タカちゃんの隣で笑っている円香ちゃんを見て葵が笑っていた。
「うん、円香ちゃんだよ。会ったことあるよね?」
「そうだっけ?」
覚えてないらしい葵は写真をめくっていた。
それを横目で見ながら、保存していた画像が全部揃っていない事に気が付いた。
タカちゃん、もしかして私が見なくてもいいように?
「それにしてもすごい量だな…これ、どうするんだ?」
「ベリーのタルトとムースを作ったらすぐに無くなっちゃうよ」
葵がテーブルに並べられたラズベリーの重さを確かめながら言うと、愁君が私を見てニッコリと笑った。
「“タカちゃん”はいつも梨桜ちゃんが喜ぶ物を送ってくれるの?」
ふとタカちゃんの段ボールを思い返してみた。
伯父さんの家から送ってくれる事が多い嬉しい贈り物は、果物とか野菜とか旬の物が多いな…
「う~ん…創作意欲が刺激されるような物?送ってくれた果物でお菓子を作ってタカちゃんと円香ちゃんに持って行ったな」
「その二人と仲がいいんだね。」
「うん」
いつも美味しいって喜んでくれたな、今は作ってあげられないのが寂しい。葵は甘い物が嫌いだから作っても食べないからつまらない。
いつも『梨桜さん!美味いです!!』そう言ってたくさん食べてくれる可愛いコジ君を思い出した。
そうだ、ベリーのタルトを作ってコジ君のお見舞いに持って行こう!
「その肩でどうやって料理するんだよ?腕が上がらないんだろ」
また葵に考えを見透かされてしまった。
肩が痛むけれど、葵が手伝ってくれれば作れない事はないのに言い方が冷たい。
「オレは手伝わないぞ。なんで嫌いなものを、しかも男の為に作らなきゃいけないんだよ?」
「心が狭いよ」
ムッとして葵を見ると、葵に冷たい目で見られた。
「何とでも言え。完治するまでおとなしくしてろ」
いいもん、コジ君の好きそうなものを買ってお見舞いに行くから。
お腹が一杯になり、食器をテーブルに置くと葵が私の手に薬を乗せた。
「勝手に出歩くのも禁止だからな」
薬を飲みながら葵を見ると、私達を見ていた拓弥君が呆れたように言った。
「宮野って過保護過ぎねぇか?」
その言葉に、うん。と頷くと葵は「放っておくとオレの手間が倍になるんだよ」と腹立たしい返事をしていた。
「それ、何となくわかる」
私の隣で寛貴がボソリと言い、ムッとしながら寛貴を見た。
「梨桜ちゃんてしっかりしてるように見えるけど?」
悠君の言葉に頷いた。
しっかりするように心がけてるもん。私、お姉ちゃんだし!
「「どこが?」」
葵と慧君の言葉が重なった。
ちょっと、『どこが?』って酷いよ!?
目の前でお腹を抱えて笑っている愁君を冷めたい目でみたけれど、私をチラリと見た愁君は「ごめん」と言いながらも笑っていた。
「…もう、寝る。おやすみなさい」
クッションを葵に押し付けて、抱き枕を抱えて楽な態勢を作り、葵にもたれて目を閉じた。
「重い!」
葵なんか押し潰してやる。
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