眠り姫と攻略法 (2)side:悠
「適当に冷蔵庫から出して飲んでろ」リビングに戻ってきた宮野が言い、別な部屋に入って行くと手に服を持ってすぐに戻ってきた。
「慧兄、梨桜には聞かせるなよ」
「分かってる」
そう言うとテーブルに置いてあった湿布や絆創膏を持つとリビングを出て行った。
初代は宮野が扉を閉めるのを見届けると、薬が入った袋から錠剤を取り出しながらオレ達を鋭く見た。
「ところで、オレが言った事はどうなった?」
「潰しました」
寛貴さんが答えると初代は頷いた。
系列を潰しに行ったときの寛貴さんと宮野は、同じチームの奴等も怖がるぐらいにキレていた。
この二人を敵に回したくない。
オレでもそう思ったから、潰されたチームの奴等は二度と関わりたくないと思っただろう。
「梨桜をターゲットにしたチェーンメールはどうなってる?」
三浦が携帯を取り出し、初代に画面を見せながら説明していた。
北陵のトップの写メを撮り、『コイツに手を出したら、同じ目に遭わせてやる』という内容でメールが広まるように三浦と拓弥さんが手配した。
「それならいい。梨桜には来週からは素顔で学校に行くように言ってある」
「そんなことしたら大変…」
初代に睨まれて口をつぐんだ。
「男子校だったんですよ?女の子は10人しかいなくて、あんな美少女が学校にいるとわかったら…」
拓弥さんが言うと拓弥さんも初代に睨まれて黙った。この人の睨みってすっげー怖い。
なんで宮野はこの人に強気でモノが言えるんだ?
「梨桜が嫌だって言ってんだ。藤島、おまえは奴等を抑えられないのか?生徒会長の威厳はそんなもんか」
「抑えます」
寛貴さんの言葉に初代は満足気に頷いていた。
絶対、パニックになるぞ、野獣の中に小動物を放すようなもんなんだから野獣のトップが寛貴さんじゃなかったらと思うと恐ろしいかも…
「ウチの学校でも大騒ぎになるだろうな…」
三浦がボヤくとインターホンが鳴った。
「はい」
『東堂梨桜さんにクール便のお届けものです』
大きな箱を抱えてリビングに戻って来た初代は、凄く不機嫌そうだった。
テーブルに箱を置き、オレ達を睨んだ。
「矢野敬彦って誰だ?なんなんだ?このデカイ箱は」
ヤノ タカヒコ?そんな奴知らない。
初代の睨みが怖くて首を横に振ると、三浦が考えながら名前を繰り返していた。
「その荷物って札幌からですよね」
思い当たる名前が無かったのか、三浦は首を捻りながら送り状を見ていた。
クール便ってことは食い物か?
「ああ。愁、調べろ」
「慧兄、インターホン鳴らなかった?」
リビングに戻って来た宮野に初代は思い切り不機嫌そうな声をぶつけた。
「札幌の矢野敬彦って誰だ?」
「矢野?」
送り状の控えを渡された宮野は、名前を見て頷いていた。
「梨桜の友達だよ。良く、“タカちゃん”って言ってるだろ」
オレは聞いたことない!
拓弥さんが「あの時の携帯の男か?」と言うと寛貴さんが「そうかもしれないな」と頷いていた。…なんで二人は知ってるんだ?オレ、その場に居た?
「友達?彼氏とかじゃないだろうな?どんな男だ」
初代は娘に近寄ってくる男を警戒している父親のようになっている。この人って、ホントに叔父バカだ。
「どんなって、…普通。中学の同級生だよ」
宮野に「ムキになんなよ」と宥められているけれど、“叔父バカ”の初代は納得がいかないらしい。
「なんで同級生がこんなにデカイ箱を送って来るんだよ?」
オレは勝手に箱の中身を想像してにんまりと笑いそうになった。
北海道 = 美味い海産物
梨桜ちゃんが羨ましい。
「梨桜の好きな食べ物だろ。愁は梨桜の好きそうなものを見つけてくるけど、“タカちゃん”は愁の上をいくな」
「は?それって聞き捨てならないんだけど」
三浦が引き攣った笑いを浮かべて宮野を見ていた。
寛貴さんは三浦を冷ややかな目で見ていて、怖い。一気に居心地が悪くなったリビングでハラハラしながら周囲を見ていると、相変わらず拓弥さんはこの場を楽しんでいるらしい。
「梨桜に聞いてみれば?」
宮野は三浦を見て笑うと、キッチンに入り何かを作り出した。
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