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秋桜  作者: 七地
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眠り姫と攻略法 (1)side:悠

まだ建てられて年数が経っていないように見える綺麗なマンションを見上げた。


ここが梨桜ちゃんの家…

好きな女の子の家に行くのって結構ドキドキするものなんだな。


「これから見ることにショックを受けるなよ?」


オレ達をここまで連れて来た三浦の言うことが分からなくて、言われるまま頷いた。寛貴さんと拓弥さんも不思議そうにしながら小さく頷いている。


「なんだよ、家では梨桜ちゃんが別人、とか?」


拓弥さんが言うと、三浦は笑って首を振った。


「彼女は普通、あのままだよ。まあ、見ればわかる」


三浦がインターホンを押すと『今開ける』と宮野の声が返ってきた。今日は余計なのもいるけど、今回は見て見ぬふりをしよう。


『愁、頼んだヤツ』


「買ってきた」


『悪いな』


短いやり取りの後に、オートロックの扉が開き、エントランスの奥へ入った。





10階の角部屋

三浦が扉を開くと、フワリといい香りが漂った。梨桜ちゃんて趣味が良いよな、家の中も可愛らしく整えてたりするんだろうか?


可愛い梨桜ちゃんと可愛い部屋。

梨桜ちゃんが出迎えてくれるのを期待していると


「お、来たな」


梨桜ちゃんじゃない…

オレの期待を裏切って初代が出迎えた。


「おはようございます」


寛貴さんが挨拶をすると「入れよ」と言われてリビングに入ると、宮野がいた。

三浦は当たり前のように中に入って行き頼まれて買って来たらしい物を宮野に渡すと初代に挨拶をしていた。


可愛らしいリビングを想像していたけれど、綺麗に片づけられていて、無駄なものが置かれていない部屋で意外だった。


「ホントに来たんだな…」


宮野はオレ達を見ると、失礼なことを言いやがった。


「初代に呼ばれたからな、それに梨桜はうちの生徒会だし」


寛貴さんの言葉に宮野が露骨に嫌そうな顔をしていた。

本当は呼ばれたというよりも、梨桜ちゃんに甘い初代を脅したというか、丸め込んだというか…この事を宮野が知ったら怒るんだろうな。


「あれ、梨桜ちゃんは?」


三浦が言うと初代が笑いながら、視線をソファに向けた。

そこには、ブランケットに包まれて眠っている梨桜ちゃんがいた。


「ここで寝るのが楽らしいんだ。行儀が悪いけど許してやってくれ」


初代の言葉に首を横に振った。

この寝顔を見ていたいから行儀が悪くても構わない。

抱き枕を抱えて寝ている梨桜ちゃんはすっげー可愛い!

三浦と拓弥さんも梨桜ちゃんの寝顔を見ていると、オレの隣から小さな舌打ちが聞こえた。…寛貴さん?


「慧兄、起こして」


三浦が買って来たものをテーブルに並べながら宮野が言うと、初代が反論していた。


「こんなにぐっすり眠ってるのに、起こすのか?」


「何時間寝てると思ってんだよ?」


厳しい宮野に初代は「ハイハイ」と返事をして梨桜ちゃんが寝ているソファの前に屈みこんだ。


「梨桜、起きろ」


「…」


呼ばれても反応しない。

幸せそうな顔をして眠っている。…熟睡してる?


「りーおー、起きろ?」


もう一度呼ばれると、瞼がピクリと動いた。


「起きなさい」


「ん」


片目だけを開き、初代を見ると抱き枕に顔を埋めてまた目を閉じてしまった。

…小動物みてぇ、可愛い!


「梨桜?」


もう一度呼ぶと、抱き枕をぎゅっと抱き締めて首を軽く横に振っている。起きたくないということなんだろうか…


「オレには無理だ」


初代が梨桜ちゃんの頭を撫でてやると、梨桜ちゃんはまた眠ってしまった。

毎日こうなんだろうか?…こんなの心臓に悪い。


「慧兄は梨桜に甘過ぎ。どいて」


宮野が梨桜ちゃんの前に屈むと抱き枕に手をかけた。


「梨桜、いい加減に起きろ」


抱き枕を揺らしながら言うと、梨桜ちゃんは眉を顰めている。


「…ねむ…」


「眠いなら寝ていいから、メシ食って薬を飲んでから寝ろ」


抱き枕を彼女から奪おうとするけど、梨桜ちゃんは抱き枕を放そうとはせずにコクコクと頷いていたけれどまだ目が開かない。

ホントに眠いんだな。


「梨桜」


低い声で呼ばれると、また枕に顔を埋めてしまった。


「薬だけ飲む」


「何か食え」


「お腹空いてないからいい」


そういう問題じゃないような気がするのはオレだけか?

宮野が飲めって言ってるのは食後に飲む薬なんじゃないのか?


「駄目だ、少しでいいから食え」


宮野の強い口調に梨桜ちゃんはやっと目を開けた。


「食べたくない」


そこにいる全員が双子のやり取りを見ていた。


「何食抜いたか、自分で分かってんのか?点滴、嫌いだろ」


梨桜ちゃんは渋々といった感じで頷き、左腕を伸ばした。

宮野が腕を支えてやるんだ。と思って見ていると、伸ばされた腕は宮野の首にスルリと回された。


「…」


自分の首に腕を回された宮野は驚くこともなく、当たり前のように梨桜ちゃんの膝下に腕を回して抱き上げた。

まさか、抱き上げるとは思わなかった。

オレにも妹がいるけど、起き上がるのを介助してやるくらいしかしないだろうな…


拓弥さんと寛貴さんも少し驚いたように二人を見ていて、三浦はオレ達を見て笑っていた。

宮野が梨桜ちゃんを抱き上げたまま歩き出すと、三浦が言った。


「梨桜ちゃん、お土産買ってきたから後で食べよう」


目をぱっちりと開けた梨桜ちゃんは宮野の肩越しにオレ達を見て驚いた顔をしていた。

もしかして、オレ達がいる事に気付いていなかったのか?


「おはよう梨桜ちゃん」


拓弥さんが言うとふわりと笑った。


「皆、来てたんだ。慧君が呼んだの?」


オレが頷くと梨桜ちゃんも頷き「着替えてくるね」と言い手を振ると宮野がリビングの外へと連れて行ってしまった。



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