Confession (10) side:悠
思いを告げても叶わないと分かっているけど、梨桜ちゃんの事が好きだ。
オレに笑いかけてくれる彼女を抱き締められたらいいのに…
頬に大きな湿布を貼っている彼女はとても痛々しくて、太陽の下で見ると気付かなかったけれど、病室で見る彼女は顔色が悪いように見えた。
『葵と二人にしてくれる?』にっこり笑った梨桜ちゃんは怒っているように見える。
病室から出たオレ達は三浦の家に行くと、リビングで梨桜ちゃんの叔父さん…初代と5代目が酒を飲んでいた。
オレ的にはありがたくもなんともないけど、朱雀と青龍のメンバーなら誰でも憧れるこの二人を一度に見られるって、贅沢だよな。
「お前達、梨桜のところに来たのか?」
『見舞か、ご苦労さん』と5代目に言われて、オレ達が頭を下げると三浦が笑いながら初代に答えた。
「梨桜ちゃんを怒らせてしまいました」
三浦の言葉に心の中で頷いた。あの笑顔は怒ってたんだ…でも、何故怒らせたのかが分からなかった。
あそこで怒らせるような事があったか?
嫌がる宮野に金平糖を食べさせていたのは梨桜ちゃんだったよな…
「葵は?」
初代が煙草を消しながら聞くと、三浦は冷蔵庫からペットボトルを取り出しながら答えた。
「病室に残ってます」
「葵に任せておけ。梨桜が怒りだしたらオレでも無理」
叔父とは思えない台詞を吐き、初代は酒が入っているグラスを傾けた。
無理って…
「初代だったくせに、姪には頭が上がらないって…現役だった頃のメンバーに見せてやりたい」
5代目は笑っていたけれど、初代は真面目な顔で反論していた。
「仕方ねぇだろ、あの目で涙ぐまれてみろ!?涼、おまえは耐えられるか?」
寛貴さんが初代を見ながら、クッと笑っていた。拓弥さんは小さな声で“おまえ見たことあるのかよ?”と聞いていた。
初代の言葉に思わず想像してしまった。
あの目でうるうるされたら?…『悠くんの意地悪!』とか言われちゃったら…想像しただけでオレ、無理。鼻血が出そう。
「単に梨桜ちゃんの涙に弱い叔父バカ」
5代目毒舌…いいのか?初代に向かってそんな毒吐いて。
「そういえば、この前のケンカも凄かった。葵の首を絞める人間なんて初めて見た」
三浦が言うと初代と5代目が爆笑した。
実は梨桜ちゃんが最強だったりして…
「梨桜ならやりかねないな」
「でも、その後普通に二人でケーキ食べてました。そこら辺の感覚が良く分からない」
「おまえ、梨桜ちゃんと仲いいよな…懐いてるっていうか。どうやって仲良くなったわけ?」
煙草に火をつけた拓弥さんが三浦を見ながら言うと、奴は口角だけを上げて笑い自分も煙草に火をつけた。
「梨桜ちゃんにとって、愁は王子様なんだよな?」
実の兄に『腹黒王子』と言われた三浦は余裕の笑みを浮かべていた。
王子様って…梨桜ちゃんは三浦が好きなのか!?
「初代、不公平だと思いませんか?オレ達は同じ学校なのに宮野とそこの腹黒王子の所為で梨桜ちゃんとかなり距離がある。あの学校で彼女を守っていくためにももっと打ち解けたいんですけど」
好奇心か対抗心か?
間違いなく三浦に対する対抗心から出てくる言葉なんだろうけど、初代は梨桜ちゃんの叔父さんの顔で拓弥さんを見ていた。
「変な下心はないだろうな」
「無いですよ」
下心があったら、いくら拓弥さんでも寛貴さんに沈められるよな。
北陵相手にキレた時のことを思い出してゾッとした。
「初代も心配ですよね?」
拓弥さんがオレに向かって、一瞬目を細めた。
それが合図だと気付き、オレはとっさに思いついたことを言葉にした。
「オレ、同じクラスだから言えるんですけど、梨桜ちゃんと信頼関係を作らないとフォローしようにも野郎が多すぎて…」
オレは梨桜ちゃんを避けて傷つけたんだよな。一瞬、その思いが頭を過ると、言葉に詰まってしまい焦った。
「ウチは去年まで男子校で女子生徒は1年に10名しかいない。周りは全部男ですから…初代もご存知ですよね?男子校がどういうところか」
最後の方を強調しながら寛貴さんは不敵に笑った。
高校生の男なんて、エロい事ばかり考えている。そう言っても言い過ぎじゃないよな。
ただでさえ、女子生徒は注目されているんだ。
梨桜ちゃんが実は美少女だった。なんてバレたらどうなることか…
「お前等、何が言いたい?」
初代が目を細めて訝しげにオレ達を見ると拓弥さんがいつも女に向ける笑顔を浮かべた。
「取りあえず、梨桜ちゃんの家にお見舞いに行きたいですね」
拓弥さんがもう一度ニッコリと笑うと笑い声が響いた。
「青龍に差をつけられたくねぇよな。きっとオレがおまえらの立場でもそう言ったな」
兄貴とは対照的に三浦は嫌そうにオレ達を見ていて、拓弥さんは挑戦的な目で見返していた。
初代はそれを見比べながら小さな溜息をついた。
「北陵を潰した報告に来い。愁、おまえが案内しろ。いいな?」
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