朱雀(4)
翌日、登校した私は小さくため息をついた。女の子がいないってつまらない。
地味子な私は「おはよう」の挨拶に同じ「おはよう」返事が返ってくるだけで、特にクラスメイトと会話があるわけでもなく、いてもいなくてもあまり変わらない存在だった。
休み時間も特に会話があるわけでなく、お昼休みは、担任が私が一人で窮屈な思いをしているからと開けてくれる家庭科室でのんびりとお弁当を食べ、少しだけお昼寝をしたりして時間を過ごした
長い間入院していた私はすっかり体力が落ちていた。
事故に会う前までは水泳部に所属していていつまでも泳いでいられるんじゃないかと思うくらい元気だったのに、今ではお昼寝しないと体力が持たない身体になってしまった。
留年したことは仕方のないことだけど、休みが多くなってまた留年なんていうことにだけはなりたくないから、なるべく体力を温存しておこうと思った。
予鈴が鳴り自分の教室に戻っていると、後ろから声をかけられた。
「東堂さん、どこで昼飯食ってんだ?」
海堂悠だった。
「空き教室だよ」
男だらけの食堂に行く勇気もないし、自分から面倒事に首をつっこみたくはない。
「今度一緒にお昼食べようぜ」
「ありがと」
一応そう言っておいた。
放課後図書室にいると葵からメールがきた。今日は随分早いなと思い携帯を開くと
“駅で待ってる”
急いで後片付けをして学校を出た
駅のコインロッカーに入れておいた制服をとりトイレで着替えて外へ出ると
今日はフルスモークの高級車が止まっていた。
私が車に近寄ると運転席から桜庭さんが出てきて後部座席のドアを開けてくれた
「おかえりなさい、梨桜さん」
「桜庭さんいつもありがとう」
ぺこりと頭を下げて車に乗るとドアを閉めてくれた。中には葵が乗っていて、制服ではなく私服を着ていた。
「葵、どしたの?」
「梨桜、これに着替えて」
紙袋を渡されて中を見ると私の私服が入っていた
「梨桜も放課後に街歩いたり買い物したりしたいだろ?」
葵に抱きついた
「ありがと葵!うれしい」
私の事を考えてくれていることが嬉しかった。
トイレで変装を解いていつもの私に戻って車に戻ると葵も車から降りた。
「葵の服も見たいな」
「オレのより自分の見ろよ」
私は葵の服を選ぶのが好き
「二人のを見ようね」
そう言って葵の腕に自分の腕をからめた。葵大好き
「いっぱい買ったね」
「オレのはいいって言ったのに」
ショップの紙袋を持ってくれている葵は少し眉をひそめて私を見る
「いいじゃない、葵はかっこいいんだからいろんなのが似合ってうらやましいよ」
それにしても私の服を選ぶときの葵は父親のようだった。パパはあまりうるさくないからパパ以上か‥丈が短すぎるとか露出が激しいとか‥
「梨桜、もっと食べろ」
久しぶりに外でご飯を食べた。葵はハンバーグで私はオムライス。
「おなかいっぱい。もう入らない」
食べきれなくて残したオムライスを葵は食べてくれた。男の子って良く食べるよね‥だからこんなに大きくなったんだろうか?
「葵、今身長いくつ?」
私が残したオムライスをあっというまに食べた葵は残っていた自分のハンバーグを食べていた。
「180くらいかな」
「それ以上大きくならないでね?」
『は?』と葵は目を少し開いて私を見る
「それ以上差がつくのはなんか悔しい」
葵ばっかり大きくなっちゃって、中学くらいまでは同じだったのに
「バカかおまえは。男と女なんだから当たり前だろ。親父だってでかいだろ」
確かにそうだけどさ‥
「パパと同じくらい?」
「この前会った時に目線が同じだったな」
やっぱり悔しい
「だったら食え。ほら」
フォークにハンバーグを刺して私の口元に持ってきた
「でかくなりたいんだろ?食え」
口を開けるとハンバーグが入れられた
「おいひい」
「もっと食べて体力つけなきゃだめだ」
頷いた。
わかってるんだけど、なかなかうまくいかないんだよ
心配ばっかりかけてごめんね
「おなかが苦しい~」
お店から出て満腹になったお腹をさすっていると葵はイヤそうな顔で私を見ていた。
「梨桜、オヤジ臭いことするなよ。ほら、帰るぞ」
「少し歩きたい。散歩して帰ろう?」
いつもならすぐにタクシーに乗るけど今日の葵は私のわがままをきいてくれた。
歩いていると“チッと”葵が小さく舌打ちをした。
どうしたんだろう?と思って葵を見ると通りの横を見ている。私もそちらをみると…喧嘩?
このまま歩いていくと喧嘩している横を通らなければいけない。
「めんどくせぇ‥」
一人に対して四人が殴り掛かったりしている。
「一人に四人て卑怯じゃない?」
「お前は見るな」
葵は低い声で言った。
「ねぇ葵、あれは卑怯だよ」
私がじーっと葵を見ると黙っていた
「‥‥」
「葵?あれは卑怯だよね?」
無言になっている葵の袖を引いた
「‥‥はぁ」
すごく大きくため息をついて私にショップの紙袋を持たせると私に言い聞かせるように顔を覗き込んで言った。
「すぐに戻ってくるからここにいろ。動くなよ?」
私が頷くと葵は走って行った。
そうして一人に対してなぐったりしている四人に声をかけると、四人のうち、一人が葵に殴りかかると葵の足が空を切り、男を蹴りとばした。
あっという間に四人を殴り飛ばすと男たちは逃げて行った。
もう大丈夫だと思って葵に近寄っていくと殴られていた人は口の脇から血を流していた。
「大丈夫?」
私がしゃがんでハンカチを出して男の子の口にあてると葵が低い声で聞いた。
「おまえどこのチームだ?」
殴られていた人は顔をしかめながら葵を見上げて、驚いていた。
「朱雀‥っていうかあんた」
「上にはオレのこと黙ってろよ?」
葵が私の腕をつかんで立たせた。
「帰るぞ」
「うん。あ、そのハンカチは返さなくていいらね?ちゃんと手当してね?」
男の子はじーっと私を見ていた。この人も同じ学校の人なんだろうか?
「ほら、帰るぞ。こいつの仲間が来ると面倒だ」
葵に手を引かれながら彼に手を振ると、手を上げて答えてくれた。
「お大事にね!」
葵は小さく舌打ちをした。
「思ったより早く来たな」
「誰が?」
葵の視線の先を見ると、反対車線からバイクが数台きた。
「朱雀だよ」
葵がタクシーに手を上げて止めたとき、大型バイクはUターンをした
2人かぁ‥
「梨桜、乗れ!」
タクシーに乗せられるとき、バイクにまたがった男と目があったような気がした。