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秋桜  作者: 七地
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Confession (9)

病室で二人だけになっても葵は口を開こうとしなかった。

不機嫌そうな顔をしたまま部屋の外を眺めている。


「葵、話して」


話そうとしない葵に痺れを切らした私が先に口を開いた。


「…知らなくて済むならそれでいいと思ったんだよ。必要以上に巻き込む必要もないと思った」


葵は私の顔を見ないで口早に言うと目を伏せた。

矛盾しているように思えるその言葉に私は首を傾げた。


「どうして?」


私と葵の繋がりが知れたら危険なことに巻き込まれるんでしょう?それと慧君の事と関係あるの?


「ねぇ、一人で悩むの禁止。って言ったでしょ?どうして話してくれないの?…“梨桜は関係ない”とか言ったら本気で怒るからね」


葵を見ていると、一瞬下唇を噛んだ。

言いたくない事を言う時の癖は昔から変わってない。


「梨桜だから。だろ?紫垣を作った慧兄の姪でオレの双子の姉だから危険だと思ったんだよ。藤島が何かをするとは思わないけど、下にいる奴等は分からない。他にもオレを潰したいと思っているチームだって多い。最初から梨桜に話をしていたら、怖いと思うだろ」


確かに狙われるのは怖い。こんな思いは二度としたくない。

でも、下唇を噛んだっていう事はそれだけじゃないよね?

葵なら私が怖い思いをしないようにしてくれるでしょう?どうしてそんなことをわざわざ言い訳のように言うの?


「葵が守ってくれるんでしょ?ちゃんと教えてくれないと怒るよ。無理しているのとか、嘘ついているのはわかるんだから。葵だってそうでしょ?」


クスクスと笑っていたけれど、私が葵の顔を覗き込むとフッと真面目な顔になった。


「オレの代で、――それが無理でも、近いうちに終わらせようと思った。終わらせようとしているのに梨桜に教えて怖い思いをさせなくてもいいと思った」


まさか、そんな言葉が出てくるとは思わなかったから凄く驚いた。


「終わらせるって…青龍を?」


慧君が作ったチームを?分裂してしまったけれど、葵の手で終わらせるの?

葵の言葉にやっぱり“どうして?”という言葉が浮かんでくる。


「意味もなくチーム同士が反目しあっていて、生徒会の交流で均衡を保っている関係なんか意味がないだろ?学校同士が比較されるからって、生徒やチームまでを互いに比較して、事あるごとに睨みあうなんてオレはくだらないと思った」


確かに葵の言う事にも頷ける。

葵は今の状況が嫌なんだね。


「慧兄が作ったチームは学校の枠には囚われていなかった。いつからか比較して、反目しあうようになった。初めて青龍のチームに行ったときにガッカリしたんだ」


その時のことを思い出して言っているのか、眉を顰めた。

私が葵に『危ないことはやめてほしいと思ってる』そう言った時に、苦しそうに『今それは出来ない』と言っていたことを思い出した。

まさか、その為に青龍の総長になったの?


「今、自分がどんな顔してるかわかってる?」


「梨桜だって自分がどんな顔してるかわかるか?」


私が聞いているのに、葵は問い掛けで返してきた。私を見ている葵の瞳の中には葵の事を心配している自分の顔が写っている。


「葵だって見えてるでしょ?」


私の瞳の中に、悲しそうな顔をして笑っている自分が写ってるでしょう?

『終わらせる』そう思いながら自分を慕ってくれるチームの人と過ごすのって辛いよね?


「それは、葵がやらなければいけない事なの?」


「オレだから。――初代の甥と、五代目の弟がトップにいる今しか出来ないと思った。…前に愁が言ったろ?オレも藤島も衝突を抑えるって。抑えても2つのチームがある以上、反目し合うんだ。慧兄だって涼さんだってこんなのは望んでない」


下唇を噛んだ葵を見逃さなかった。


「でも、葵は迷っているの?本当は終わらせたくないの?」


そう聞くと、クッと笑って「双子ってこういう時に不便だな」と言った。


「仕方ないじゃない?分かっちゃうんだから。…私は青龍の皆が好きだよ。愁君もコジ君も…葵の大切な仲間だもんね?」


私の言葉に小さく頷いた葵の表情は柔らかくて、やっといつもの葵に戻ってくれてホッとした。

本当に愁君達には感謝しているんだよ?葵の周りには大切な仲間がいて良かったって思ってるの。


青龍と朱雀が歩み寄れる日が来るといいね…



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