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秋桜  作者: 七地
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Confession (8)

広くはない病室に男が5人いるのって息苦しい。

しかも和やかにしている訳じゃないから余計に厄介だ。


私の所に来ているのに族用語だらけの会話をしていて、私はすっかり蚊帳の外。

つまらない…定例会なら学校でやればいいのに。


「これ、どうした?」


会話から抜けたらしい葵が、枕元に置いていた金平糖が入っている瓶を見つけた。


「可愛い男の子にもらったの」


私が葵に“それ、頂戴”と手を伸ばすと、葵は瓶を私の手の平に乗せた。

瓶を軽く振ると、瓶は小さな音を立てた。


「男?」


瓶を開けて、一粒口に入れた。

甘くて、ソロソロと口の中で溶けていく触感が楽しい。


「私にね、「ほっぺたイタイ?」って聞いてきた男の子がいたの。「痛いよ」って言ったらこれをくれたの」


金平糖を一粒摘まんで葵の目の前に持っていき、自分の口に入れると、眉を顰めて「知らない奴からもらうなよ」と私を窘めた。


「これを食べると、ほっぺたイタイの治るんだって。凄く可愛いと思わない?」


「…男の子って、もしかして子供か?」


怪訝な顔をして金平糖が入っている瓶を見ていた。

やだ、葵ってば…当たり前じゃない。中学生や高校生がそんなこと言うわけないでしょ?


「5才位の男の子だよ」


変な想像をした罰に、一粒を葵の唇に押し付けた。嫌そうな顔をしたけれど、そんなのは無視。


「家族の為に持ってきたのに私にくれたんだよ。優しい気持ちが嬉しいと思わない?」


渋々と金平糖を食べる葵ににんまり笑って、自分でももう一粒口に入れた。


「美味しいでしょ?」


「…砂糖の塊だろ。…甘い」


私を見ていた愁君と目が合った。『葵に勝ったよ』と目で合図すると、愁君は肩を揺らして笑っていた。


「あのさ…宮野と梨桜ちゃんていつもこんな感じな訳?」


拓弥君が呆れた顔で聞いてきて、私が答える前に愁君が「ああ、いつもこう」と答えてしまった。


「姉弟喧嘩が面白いんだよ」


愁くん、いつも面白がってたんだ…

私は真面目に葵に抗議していたりすることが多いのに…傍から見たら面白く見えるんだ…

でも、それって葵の所為だよね?いつも葵が私を丸め込むからだよね。

葵が「あれは喧嘩じゃない」と言いながら、私のお茶を勝手に飲んでいた。


「梨桜ちゃん、オレにも頂戴!」


悠君が手を出して来たから、金平糖を掌に乗せてあげて…疑問が湧いた。

反目しあってるハズなのに、いつまで一緒にこの空間にいるの?


「ねぇ、何か変…」


ニッコリ笑った愁君の顔を、じーっと見た。ねぇ、何か企んでない?

すっごく嫌な予感がしてきたの。


「何が?」


部屋を見回すと寛貴と目が合った。私を見て、フッと笑い口を開いた。


「梨桜、これから放課後は一日おきに青龍と朱雀のチームに行くことになったからな」


…なんで?

葵を見ると、不機嫌そうな顔をしてお茶を飲んでいる。


「それは、梨桜ちゃんがウチと青龍のお姫様だから」


語尾にハートマークでもついているんじゃないかと思うような拓弥君のいつも通りの軽い口調と言葉に眉を顰めてしまった。


「困るんだけど…」


「「なに?」」


葵と寛貴が同時に言った。気が合うんじゃない?

それに、凄んでも怖くないからね。


葵との関係がオープンになったら、女子高生らしいことをしようと思っていたのに、これじゃ自由に行動することができないじゃない?

憮然としながら、葵が飲んでいたお茶を取り返して一口飲んだ。


「どうして、勝手に決めるの?」


抗議すると、葵はムッとしたように言葉を返して来た。


「オレが決めたんじゃない」


じゃあ、誰が決めたの?私もムッとして葵を見た。


「梨桜ちゃんの叔父さんが決めたんだよ」


拓弥君の言葉が信じられなくて寛貴を見ると、私を見て小さく頷いた。

慧君が言ったの?本当に?


「慧君は私には一言も言わなかった」


葵と交代で家に帰った慧君は、私に青龍と朱雀の話はしなかった。ただ、いつも通りの梨桜で過ごせばいい。って言ってくれただけ。

私と葵が睨みあっていると、見かねた愁君が間に入って私を宥めてくれた。


「梨桜ちゃんはオレ達だけのお姫様でいて欲しいけど、慧さんが決めたんだ。『青龍と朱雀で梨桜ちゃんを守るように』って。また北陵みたいな卑怯なチームが梨桜ちゃんを狙わないとは限らないだろ?」


『私は葵の弱みだから狙われる』それは分かったけれど、どうして慧君が『青龍と朱雀で』そう言うのかが分からない。


「オレ達だって、梨桜ちゃんが青龍で姫扱いされるのは面白くない。でも、初代が言った事には逆らえないだろ?」


悠君が言い、私は首を捻った。

初代って、誰?どうしてその人が私の事を勝手に決めるの?

葵に視線で聞くと、目を逸らされた。


「葵、答えて」


答えたくない時にする仕草だったけれど、しつこく「誰?」と目で訴えた。


「…」


「知らないの?梨桜ちゃんの叔父さんだろ」


悠君の言葉に葵は思い切り渋い顔をした。

その顔は悠君の言葉を肯定していたけど、なんだか信じられない。


「慧君が?」


紫垣の初代が慧君?寛貴が『逆らえない』って言っていた、その人?

本当に?


「梨桜ちゃん、知らなかったの?」


拓弥君の言葉に、作った笑顔で答えた。

葵はやっぱり渋い顔をしている。その顔は知っていた顔だよね?しかも、できれば私には教えたくなかった。


どうして教えてくれなかったの?


「ごめんね、葵と二人にしてもらってもいい?」


葵以外の皆にニッコリと笑いかけると、愁君がいつもの王子様な笑顔を私に向けた。


「梨桜ちゃん、怪我をしている事を忘れないでね。この前みたいなのは駄目だよ?」


釘を刺されてコクリと頷いた。

大丈夫。この前と同じことをしたらきっと私は当分動けなくなるから…無茶はしません。

でも、葵を問い詰めるくらいはしてもいいでしょ?



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