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秋桜  作者: 七地
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Confession (7)


慧君に寄りかかって、外の空気を楽しんでいると、


「お姉ちゃん、ほっぺたイタイの?」


声をかけられて、思わず笑みが浮かんだ。

小さくて可愛らしい男の子が私を見て話しかけていた。


「うん、痛いの」


男の子には私の頬に貼られている湿布が大きな怪我をしているように見えるのだろう。心配してくれている様子が可愛らしくて、つい、泣き真似をしながら言うと「カワイソウだね?」と言って首を傾げながら眉をひそめた。


可愛い!!

男の子を抱き上げたくて、前屈みになって腕を伸ばしたら肩と胸が痛んだ。


「うっ…」


動きが固まってしまい、慧君に支えられてベンチの背もたれに体を預けた。


「お姉ちゃん、イタイの?」


痛みを堪えているせいで返事ができないでいると、代わりに慧君が男の子に説明してくれた。


「お姉ちゃんは大丈夫だ。ボクは一人か?」


慧君が聞くと、男の子は「パパと一緒にママとみーちゃんのとこに来たの!」と楽しそうにおしゃべりを始めた。

可愛いなぁ


「一人になったら、パパが迷子になったと思って心配するぞ?どっちから来たんだ?」


慧君はそう言うと男の子は「あっち」と指を病棟の方に向けた。

私と葵の面倒を見てきただけあって子供の扱いが上手い。感心しながら慧君を見ていた。


「名前は言えるか?」


「りゅう」


「カッコイイ名前だね、りゅう君」


私が言うと、りゅう君は嬉しそうに笑った。


「りゅう、一緒にパパのところに帰るぞ?」


慧君がりゅう君に手を伸ばすと、りゅう君は素直に慧君の手を握った。

何て素直で可愛らしい男の子なんだろう…感心しながら見ていると、慧君は「すぐ戻る」と言ってりゅう君の手を引いて歩こうとしたけれど、りゅう君は立ち止って私を振り返った。


「おねえちゃん!」


私に駆け寄ってくると、手に持っていた小瓶を私に差し出した。


「それ、食べるとほっぺたイタイの治るよ?」


小さな瓶に入っているのは、淡い色をした可愛らしい金平糖だった。


「これ、ママとみーちゃんにあげるんじゃないの?」


「みーちゃんにはあげたからいいの。今日はお姉ちゃんにあげる!」


瓶を私の手の平に乗せると「バイバイ」と言って慧君の手を握った。


「りゅう君、ありがと!」


慧君に連れられてパパのところに帰るりゅう君に手を振った。



金平糖の入った瓶を空にかざして見た。

まだ5才位に見える男の子でも優しい気遣いができるんだ。りゅう君の気持ちが嬉しくて温かい気持ちになれた。


空にかざした瓶の向こうから、庭の中を横切っている通路から見慣れた制服が歩いてくるのが見えた。

少し硬い表情でこちらに向かってきている悠君と、いつも通りの拓弥君だった。


「起き上っても平気なの?」


拓弥君がニッコリと笑いながら言うと、隣では硬い表情のままの悠君が私を見ていた。


「うん、気分転換に連れてきてもらったの」


「へぇ、…弟に?」


含みを持たせた言い方に、胸がぎゅっと痛んだ。やっぱり、許してはくれないかもしれない。

でも、謝らなきゃ…


「叔父に、だよ。…葵との事、ずっと嘘をついていてごめんなさい」


体が許す分だけ頭を下げて謝った。


「寛貴には生徒会を抜けた方がいいなら辞めるって伝えてあるから…私が居ない方が生徒会にも朱雀にも良いのなら私はすぐに辞める」


頭を下げたまま言うと、拓弥君も悠君も何も言わなかった。「本当にごめんなさい」もう一度謝った。


「はぁ…梨桜ちゃんさ、潔すぎ。もう少し言い訳とか、考えないの?」


拓弥君が呆れたように言い、悠君も何も言わなかったけれど、溜息をついた。


「宮野と三浦に言われて素顔と宮野の事を隠してたんだろ?アイツらの所為にして自分は悪くないって言ったら?」


金平糖の瓶を握りしめながら顔を上げた。


「でも、生徒会の皆に嘘をついたのは私だから。悠君が心配してくれていたのに、本当の事を言わないで黙っていて嫌な思いまでさせちゃったし…ごめんなさい」


悠君はもう一度溜息をついて私に紙袋を差し出した。

受け取りながら、なんだろう?と思って覗くと課題のプリントが沢山入っていた。

わざわざ持ってきてくれたの?


「ありがとう」


「明日、昼休みにここに来るから、その課題写させて?…それで、宮野と双子だって黙っていたことをチャラにする」


そう言って、ニッと笑った悠君の顔を見て涙が出そうになった。

やっと、笑ってくれた…


「うん、解いておくね」


「それと、今度の調理実習のメニューはオレが好きな献立にして」


「あ、それオレも!」


拓弥君の言葉に頷いた。


悠君、拓弥君…ありがとう。



.

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