Confession (6)
2日間続いた高熱がやっと微熱位まで下がったけど、何となく体がだるい。
葵と慧君が交代で看ていてくれたから心細くはなかったけれど、二人に申し訳ない気持ちで一杯になって、自分のしたことがどんなに無謀だったかが思い知らされた。
「梨桜、もう少し食べなさい」
「…後で」
慧君が食事をとりたがらない私にお粥を食べさせようとしてくれているけど、体が受け付けてくれなかった。
「食べないと家に帰れないぞ?」
慧君に「食べなさい」と言われて口を開けた。病院はあまり好きじゃないから早く家に帰りたい。
「…ちゃんと叔父さんしてるんだ」
慧君に差し出されるままにお粥を食べると、涼先生が珍しい物を見るように慧君を見ていた。
「当たり前だろ。梨桜に飯を食わせて、風呂に入れて、寝かしつけてたんだから」
慧君の話を聞いている涼先生はとっても楽しそうだった。改めて昔の事を言われると本当の事だけど、少し恥ずかしい…
「それって葵にも同じように世話をしてたんですよね?」
「まぁな、葵もあの頃は素直で可愛かったぞ。な?梨桜」
同意を求められて、頷いて良いのか悪いのか…
「葵は今でも可愛いよ?」
疑問形になってしまったけれど、一応フォローをすると涼先生は笑っていた。
ずっと病室にいるのも飽きたし、外の空気に触れたかったから、慧君に我儘を言って病院の中庭に連れて来てもらった。
「暑くないか?」
「大丈夫。慧君、気持ちいいね」
そう言うと、笑いながら頭を撫でてくれた。
撫でられた髪の毛は私の頬を擽った。
「短くなったな」
葵が『取りあえず揃える』と言って切ってくれた髪の毛は、顎のラインで切り揃えられていた。肩のラインより短くしたことが無かったけれど、葵は北陵のチームに切られた長さよりも短めに髪を切った。いつも『短くするな』って煩い位に言っていたから理由を聞いたら『あの男に切られたラインで揃えたら思い出すだろ』って言っていた。
「思い出して怖くなったりしないか?」
眼を閉じて慧君の言葉を聞いていた。
凄く怖かったけれど、同時に怒っていたから思い出してもあまり怖くはないと思う。
「夢に見てうなされたりしないか?」
「うん…」
大丈夫。と頷きかけて、急にあの言葉を思い出した。『嫌な記憶は塗り替えればいい』
寛貴とキスしたことを思い出してしまい、固まっていると慧君が私の顔を覗き込んだ。
「梨桜、顔が赤いぞ?熱がぶりかえしたんじゃないのか」
「大丈夫だよ」
違う事を考えよう、あのキスを思い出すと心臓に悪い!
平静を装って慧君の顔を見て笑いかけると、慧君は私の額に手を当てて熱を測り安心したように笑った。
昨日、ベッドの中で考えたことを慧君に相談することにした。
「あのね」
「ん?」
慧君は顔をのぞきこんで私の話を聞いてくれる。小さい時から私の目線に合わせて、ちゃんと向き合ってくれるから安心して話ができる。
「私、学校に行ったら眼鏡をかけたりしないで普段の梨桜に戻りたいの。葵に言ったら怒るかな?」
もう葵との繋がりを隠す必要はないから、素顔で過ごしたい。
嘘をつくのは性に合わない。
「オレが葵と藤島に話すから心配するな。梨桜はいつも通りに過ごせばいい」
「うん」
ありがと、慧君。
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