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秋桜  作者: 七地
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Confession (2)

自分の手がぴくりと動くと、それに応えるように握られた。

目を開くと白い天井、左を向くと点滴が吊るされているスタンド、右を向くと…なんて顔をしているの?


「葵…」


「ん」


思い詰めたような顔をしている葵の頬に触れた。


「そんな顔、しないで?」


こんな顔をさせているのは私の所為だよね?ごめんね


「梨桜」


「慧君、来てくれたの?」


葵の隣に慧君が居た。京都から来てくれたの?

皆に迷惑かけちゃった…


「心配かけてごめんなさい」


「痛いだろ?話さなくていい」


慧君が私の頬を撫でてほほ笑んだ。

ああ、慧君だ…大好き。


「コジ君は?」


「見かけは派手だけど、腕を骨折しただけだ」


骨折という言葉に眉を顰めると、葵と慧君が揃って眉を吊り上げた。

二人ともコワイ…


「梨桜も同じだからな」


「そうなの?」


怖い顔をしている葵に問いかけると「オレ、もうやだ」そう言って項垂れてしまった。

慧君が葵の代わりに説明してくれた。


「肋骨が一本。肩を強打した打撲と全身の打撲…涼に聞かなかったのか?」


お説教されてたから聞かなかったかも…

笑って誤魔化そうとしたら、胸が痛んだ。


「イタ…」


「2、3日大人しくしてなさい。もう少し眠りなさい」




少し眠って目を覚ますと、部屋には葵しかいなかった。


「葵、ちゃんと休んでる?」


「オレの事はいい」


葵はベッドを起こすと水を飲ませてくれた。


「慧君は?」


「寝に帰った。後でオレと交代する」


うん。と頷いた


「葵、来てくれてありがと」


「トラブルに巻き込まれたのは分かったけど、最初は見当がつかなかった。朱雀の倉庫に行って海堂から笠原の事で担任から電話があった事を聞いて北陵だと思った。その後にコジとオレの携帯のGPSで居場所が分かったんだ」


仲が悪いのに寛貴達の所に行ったんだ。倉庫で喧嘩にならなかったのかな


「寛貴に迷惑かけちゃったね」


「どうしてそう思うんだ?」


どうしてって…

私は朱雀の人達に良く思われていないから。私は寛貴に釣り合わない。そう思われているのは良く分かってる。


「葵の所とは違うでしょう?朱雀としてあの倉庫に来たとしたら…下の人達は納得しないんじゃないかなって思ったの」


きっと寛貴だってその事は良く分かってると思うんだよね。


「それは、本当のお前の事を誰も知らないから…紫苑と朱雀にそう思わせているのはオレのせいだよな」


だから、そんな顔しないで?一人で考えないで。

葵の頬に指を伸ばして、軽く摘まんだ。


「悩むの禁止」


葵はフッと笑って、私の髪の毛に触れた。豊に切られた髪の毛は、私の頬の所で不揃いに揺れていた。


「明日、揃えてやるよ」


え、できるの?


「葵がやるの?」


そう言うと、ムッとした顔をして殴られていない方の頬を軽く摘ままれた。


「不満かよ」


「可愛くしてね?おかっぱにしないでね?…葵、お願い」


心を込めてお願いすると、摘ままれた頬を引っ張られた。

酷いよ!


「あお…ヤダ…」


扉がノックされて、葵が「ハイ」と返事をしてしまった。

ちょっと、恥ずかしいからその手を離して!


扉が開いて、部屋に入って来たのは寛貴だった。


「ひろ…」


頬を摘ままれたままの恰好を寛貴に見られてしまった。


「…」


病室に入ってきた寛貴と葵は鋭い視線を絡み合わせたまま何も言わない。

いつも以上に緊迫した雰囲気に私も言葉が出なかった。

昨日、私が涼先生に病室に連れて行かれた後に何があったんだろうか?これから聞こうと思っていたのに…

葵を見ると椅子から立ち上がって私を見下ろした。

さっきと同じ顔…考え込んでいたのはこの事?


「いつものでいいだろ?」


その言葉に頷くと葵は病室を出て行ってしまった。




寛貴は何も言わずに私を見ていて居心地が悪くなってしまう。

葵は何を話したんだろう?


「心配かけてごめんなさい」


「ああ…」


「…」



会話が続かない。

どうしよう、と思っていると寛貴が口を開いた。


「似てないんだな」


その言葉に、葵が何を言ったのかがようやく分かった。


「葵との事…ずっとウソをついていてごめんなさい」


頭を下げて謝った。


「…頭あげろ」


頭を上げようとしたらズキン!と肩と胸が痛んだ。

自分の力ではどうにもできず、頭を下げたままでいたら「梨桜?」と呼ばれた。


「ごめん。痛くて動けない…」


寛貴が支えてくれて、私の身体を起こしてくれた。


「本当にごめんなさい。許してもらえるようなコトをしたとは思っていないから…生徒会を辞めた方がいいなら抜ける」


私の表情から心を読み取ろうとしているかのように真っ直ぐに見つめられた。


「梨桜は辞めたいのか?」


――分からない。

率直に、素直にそう思う。

寛貴はどう思っているんだろうか?辞めて欲しいと思っているの?


「宮野が辞めろって言ったら辞めるのか?」


その言葉には首を横に振った。目を伏せたまま「今は自分の考えで生徒会にいるんだよ」

そう言うと、寛貴が溜息をついたのを感じた。


呆れた?


「女なのにこんな怪我をして…どうして一人で行った?オレに言えって言っただろ」


呆れてないの?

顔を上げて寛貴を見ると、少し怒っているような顔をしていた。

総長モードで怒っている顔じゃないことに少し安心してもう一度「ごめんなさい」と言うと、寛貴はさっきまで葵が摘まんでいた頬に指で触れた。


「笠原から昨日の事を聞いた。怖い思いをさせたな」


哲にされたことを思い出し、昨日の嫌悪感が蘇ってきてギュッと目を閉じた。

嫌だ…気持ち悪い!


「梨桜」


名前を呼ばれて目を開けると、目の前に寛貴の顔があった。


「嫌な記憶は塗り替えればいい。…弟にはできないよな?」


なに?何の事!?

寛貴の言葉の意味が分からずに戸惑っていると唇が触れた。


「噛むなよ?」


「な…なんで?」


寛貴は唇を離すと、不機嫌そうに「他の男にされてんな」そう言い、もう一度唇を重ねた。



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