Confession (1) side:悠
オレに向かってさっきから暴言を吐く医者。何なんだコイツ、すげぇ腹立つ
医者が梨桜ちゃんを抱えると、梨桜ちゃんは、“イヤ”と抵抗していた。
「涼先生、ヤダッ」
「自覚してないみたいだけど、君の体はもう限界なの。続きは明日にしてもう寝なさい」
自分の腕の中に抱えた梨桜ちゃんに、駄々を捏ねる子供に言い聞かせるように説き伏せて医者は歩き出した。
「まだ平気!涼先生下ろしてっ」
身を捩ろうとして痛みに顔を歪ませている。
医者は苦笑いを浮かべながら梨桜ちゃんに「じっとしてないから痛むんだぞ」と言い聞かせていた。
「大人の言う事は素直に聞きなさい。君にこれ以上何かあったら、オレは殺される…梨桜ちゃんなら分かるだろ?」
言われた当人は少し頬を引き攣らせていた。
三浦は笑いを堪えていて、宮野は憮然としている。オレにはさっぱり分かんねぇ…
「5代目、オレ、焦らされるのは性に合わないんですけど?」
苛立ちを抑えている寛貴さんの言葉に耳を疑った。今、5代目って言ったか?
「5代目?」
オレが繰り返すと、医者は顔だけをこちらに向けてニヤリと笑った。
「葵、愁…お前等が蒔いた種だ。自分達で始末つけろよ?」
そう言うと、梨桜ちゃんを抱えたまま部屋を出て行ってしまった。「説明しろ」寛貴さんが苛立ちを隠さずに言うと、宮野は思い切り不満そうな顔をした。
「場所を変える。ついて来いよ」
三浦に言われて連れられて来たのは、病院から少し離れた敷地に建てられていた豪邸のリビングだった。
「なんだよここ」
「ウチの離れ。兄貴とオレしか住んでない。座れよ」
寛貴さんちもデカイけど、こいつんち金持ちだな…
リビングを見回しながら、寛貴さんの隣に座ると、向かいでは宮野がソファに座り深く息を吐いた。
テーブルに置かれていた煙草の箱から一本取り出して銜えると、冷蔵庫を開けていた三浦がライターを投げた。
それを片手で受取り、煙草に火をつけた。その仕草に男のオレでもゾクリと背筋が粟立った。
綺麗な男…
「梨桜ちゃんにバレないようにしろよ?」
煙を吐き出しながら、自分をからかう三浦を睨んでいた。
「るせ…」
オレは我慢出来なくて口を開いた。
「5代目ってなんだよ」
「お前の兄貴は、紫垣の5代目総長、三浦涼…そうだろ?」
寛貴さんが言うと三浦が頷いた「5代目ってあの?」寛貴さんに聞くと、「そうだ」と頷いた。
三浦の兄貴があの有名な紫垣5代目…
頭がキレて喧嘩が強い。初代と並んで伝説のように語られている人がさっきの医者?
チームに入っていれば誰でも憧れる人が…さっきからオレをガキ扱いしていたあの医者。
正直、ショックを受けたけれど、今一番聞きたいのは違う。と気を取り直した。
梨桜ちゃんだ。オレが知りたいのは彼女とコイツらの関係。
「前に5代目が学校に梨桜を迎えに来たことがあったよな。どうしてだ?」
寛貴さんが聞くと三浦が頷きながら答えた。宮野は煙草の煙を眺めていた。オレ達の話を聞いているのか、いないのか…
「兄貴は彼女が東京に引越してきてから診ているから。主治医としてだけじゃなく、兄貴は梨桜ちゃんを可愛がっているからな」
三浦は、主治医の弟として出会ったのか?そこから親しくなったのか…
「どうしてだよ?お前らと梨桜ちゃんは面識があったのかよ?」
オレが聞くと、奴は煙草を灰皿に押し当てて火を消した。
「梨桜とは面識があるとか、そういう関係じゃない」
じゃあ、どういう関係なんだよ…梨桜はオレの女だ。とか言うわけじゃないよな
知りたい気持ちと、知りたくない気持ちが混ざり合ってぐちゃぐちゃになりそうだった。
「先に言っておく。彼女に眼鏡を掛けさせて素顔を隠させたのはオレ達だ。オレ達との…特に、葵との繋がりを隠すように言ったのもオレ達だ」
あれは、弟が眼鏡をしろって言ったから掛けていたんじゃないのか?
「本当は朱雀との接触も避けたかった」
宮野がボソリと言い、三浦がテーブルに置いた水を口に運んだ。
「何の為にそんなに手の込んだ事をした?梨桜もそれを望んでいたのか?」
出会った頃の梨桜ちゃんを思い出していた。確かに、生徒会に入れる時にはハッキリと嫌だと言われた。
あの言葉と態度が宮野に言われたから…コイツらの為に発していたモノだとしたら…
オレって、嫌われてたのか?しかも朱雀だという理由で…
「最初、梨桜は嫌がった。だけど、アイツを護る為にオレとの繋がりを隠したんだよ」
繋がりってなんだ?
「梨桜ちゃんには弟がいるだろ?」
分かりきったことを聞いてくる三浦にイライラした。
だったら何なんだよ?梨桜ちゃんが大切にしている弟と宮野が何の関係があるんだ!?
「オレだよ」
は?―――宮野は何を言っているんだ?
「梨桜の弟はオレだ」
「ウソだっ!」
咄嗟に言葉が口をついて出ていた。
そんなの信じられるかよ!?
「信じろっていう方が無理じゃないか?」
寛貴さんが宮野を睨みつけて言いながら立ち上がった。寛貴さんの言う通りだ。
梨桜ちゃんの弟が宮野。そう言われて『ハイ、そうですか。そうだったんだ』と信じられるわけがない。
「オレは梨桜の双子の弟だ」
「…双子?梨桜とおまえが?」
三浦が苦笑いを浮かべながら寛貴さんに言った。
「信じたくない気持ちは分かる。でも葵と梨桜ちゃんは双子だ」
「梨桜に直接聞く」
そう言うと、寛貴さんは部屋を出て行った。




