Over (11)
看護師に「楽な姿勢で休んでてね」そう言われて、少しだけ起こしたベッドに寄りかかるようにして休んでいると、涼先生に顔を覗きこまれた。
「痛い?」
その言葉に素直に頷いた。
殴られて切れた口の中が痛い。頬が痛い。右肩が痛い。胸と背中が痛い。
「自分が女の子だって分かってる?」
もう一度頷いた。
「あいつらに、……レイプされる位なら、怒らせて殴られて時間を稼いだ方がマシだと思ったの」
哲にキスされた事を思い出すだけでゾッとする。
そう言ったら涼先生は大きな手で私の頭を撫でた。
「それでも君は女の子なんだ。葵が間に合ったから良かったようなものの…」
私もあの時同じ事を考えていたから頷いた。
今思い返すと、あと少し遅かったら。そう考えると凄く恐ろしい。
「ごめんなさい」
謝ると涼先生は私の手をポンポンと叩いた。
「約束だぞ?…葵が心配してるよ」そう言って涼先生は処置室の扉を開けて葵を呼んだ。
「なんで宮野だけなんだよ!?梨桜ちゃんの怪我はどうなんだよ?」部屋の外から悠君の声が聞こえた。
来てくれんだ…ずっと嘘をついていたことを彼等に謝ろう。
「梨桜」
葵が枕元にある椅子に座り、湿布を貼られた頬を撫でた。
「痛いか?」
「うん。葵、黙って勝手な事してごめんね」
「…朱雀の倉庫で梨桜の髪の毛を見たときは手遅れかもしれないと思った」
もう一度、ごめんね。と謝り葵の顔に手を伸ばして頬を撫でると目を伏せた。
「二度とこんな思いはしたくない」
「うん、約束する。これからはちゃんと葵に言う」
扉が開くと数人の足音がして、私が寝かされていたベットの前で止まった。
葵から視線を移すと、寛貴達が居た。
「梨桜ちゃん」
悠君の隣に立っている麗香ちゃんが泣いていた。
「麗香ちゃんは大丈夫?何もされてない?」
私が聞くと、ぽろぽろと涙を流しながら頷いた。
「私は大丈夫。私の所為で…ごめんなさい」
私が勝手にやった事だから彼女が心を痛めることはないのに…
気に病まないで欲しい。そう思って麗香ちゃんから葵に視線を移すと、『駄目だ』と首を横に振った。
葵の制止を無視して、ベッドに肘をついて身体を起こそうとすると、葵に止められた。
「駄目だ」
起こしかけた体をベッドに戻されると、
「梨桜ちゃんと宮野って何なんだよ」
悠君が不機嫌そうに言い、葵の肩越しに寛貴と目が合った。
「何で梨桜ちゃんが宮野の携帯を持ってるんだよ。どうして宮野だけがこの処置室に入れたんだよ!?二人はどういう関係なんだ?答えろよ宮野!」
前に寛貴から言われた事を思い返しながら厳しく問い質す悠君を見ていた。
私の口から説明しなきゃ…
「悠、やめろ」
寛貴が悠君を止めたけれど、彼が疑問に思うのも無理はない。
…全部話して、謝ろう。
悠君に向き合い決心した。
「悠君、あのね!私…「本当にうるせぇガキだな!」
私の言葉を遮った声に驚いた。
…どうして?
「そんなのは後だって構わないだろ!?怪我人を労われないバカは出て行け!」
私と葵の事情を知っている筈なのに、どうして止めるの?
「…涼先生?」