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ナイトメア・ミステリア  作者: 堂樹@書き専
【Case1】病死したアイドル画家の謎
5/48

【2】



 天海ルイの絵を見ることのできるサイトへアクセスする。幻想的で美しい風景画ばかり並んでいた。水面に宝石が散りばめられた夕刻の海岸、ゴシック調の模様が刻まれた三日月の浮かぶ夜空など。どれも神々しく煌めいている。


『ジャンルは違えど、俺たちは創作人ですからね……。ルイは「制作途中の絵を完成させたい」とかの未練で幽霊になってるかも。どこかでばったり会えたらノートにサインしてもらわなくちゃ』

「春斗くんが持ってるノートとペン、天海ルイにも使えるの? 幽霊同士は接触OK?」

『少なくとも身体に触れることはできますよ。俺も気になって、声を掛けた幽霊と何度か握手してみましたから』


 話の区切りにスマホを置く。

 時刻は午後十時過ぎ。

 明日も朝から仕事のため、そろそろお風呂に入って寝る支度をしたい。春斗くんにはお引き取り願うことにした。


『そういえば、凛花さんって何の仕事してるんです?』

「……実はその……私、フリーターなんだよね。喫茶店でバイトしてるの」

『バイト?』

「大学時代、就活に失敗しちゃってね。当時バイトしてたカフェの店長が『勤務時間を増やせば社会保険にも入れる』と言うから、就職できるまでのつもりでお願いしたんだけど。結局バイトリーダーにもなって、そのままズルズルと……」

『今二十八と言ってたから、六年くらいフリーターってことですよね。何で言いにくそうにしたんです?』

「途中で就活やめてバイト生活だもん。甘えてるって思うでしょ?」

『何言ってるんですか。正社員だろうが派遣だろうがバイトだろうが、仕事は仕事。凛花さんが頑張ってることに違いないですよ』


 美麗な笑顔でそんなふうに言われると……。

 不覚にもワガママ王子にドキッとしてしまった。


『どこの喫茶店で働いてるんですか?』

「車で十分くらいのところにある《ルーチェ》っていうお店。キッチンを担当してる」


 開店時刻は午前七時。

 朝イチから出勤の日は六時半までにタイムカードを押さなければならない。

 春斗くんは『また来ます』と言い、ボディバッグを肩に掛けた。見送るつもりで私も腰を上げる。しかし、彼が向かったのは玄関でなく窓だった。


「どこに行くつもり?」

『窓をすり抜けてここを出るだけですよ。おやすみなさい』


 春斗くんは窓に向かってダイブした。

 私の部屋はアパートの二階。今まで幽霊と接してきた経験上、宙に浮いたりしないはずだ。彼の身体はあっという間に地面まで落下。しかし骨が折れることも痛みを感じることもないようで、足取り軽く遠ざかっていった。


 ……玄関から帰らず飛び降りた意図は分からないが。

 彼が厄介な訪問客であることに変わりない。




 土曜日は朝から《ルーチェ》でバイト、その後ジョギングというのがルーティーン。

 人と会うことは滅多にない。

 片手の指で足りる数しか友人がいないからだ。

 時々幽霊の相手をすることになってしまうため、変な人だと思われぬよう、なるべく目立たず大人しく――それが平穏な暮らしを守るために学んだ(すべ)とも言える。


 ランニングシューズを履いて外に出ると、冷たい風が頬を刺激した。アパートの傍にある空き地で簡単なウォームアップを行い、住宅街を駆け抜けて東公園を目指す。

 今日も順調に走っていき、東公園の近くで春斗くんを発見した。街路樹の傍、古ぼけた立札の前に佇んでいる。


 周囲に人の姿は少ない。

 それでも春斗くんと会話するのは避けたいと思い、くるりと向きを変えたが――タイミング悪く、彼の顔がこちらへ向いた。


『偶然ですね、凛花さん』


 ……無視して走り去りたいところだが、追い掛けて来られても厄介だ。付近に人がいないことを確認し、彼の元へ駆け寄った。


「外では会話しないよ?」

『どうしてです?』

「誰かに見られたら確実に不審者でしょ。幽霊がしつこく絡んできても、車に誘導したり部屋に入ってもらったりしてから話すようにしてる」

『だから俺のときも「部屋に来て」と言ったんですね』

「また今度ね」

『大丈夫ですよ。ちゃんと配慮するので、楽しいトークタイムといきません?』


 もう一度周囲を見渡す。

 付近に人がいないとはいえ、極力小さな声を心掛けよう。


「こんなところで何してたの?」

『取材も兼ねて東公園内の散策です。それと、気になったのがコレ』


 春斗くんは真横にある立札を指さした。木製の立札には、おどろおどろしい文字で《魔界》と書かれている。表面は黒ずんでおり、ちょっと(つつ)いたらバラバラになってしまいそうな不安感。しかし、立札を支える柄の部分はしっかりしている。


『面白いでしょう?』

「そうかな? 一週間くらい前から立ってるのは知ってたけど、ちゃんと見たことなかった」

『お化け屋敷みたいな場所かなぁって想像を膨らませてたところです。好きなんですよね』

「お化け屋敷が好きって。春斗くんが言うと違和感あるね」

『失礼な人ですね。俺はお化けじゃないです。死んでいるという事実を除けば、いたって普通の人間ですよ』

「そもそも死んでることが普通じゃないんだってば。って言うかこの看板、お化け屋敷じゃないと思うよ」


《魔界》の斜め下には小さく《horror(ホラー) gallery(ギャラリー)》と書いてある。ホラー系の品物やイラスト等の展示スペースではないだろうか。



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